世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)が今年は50回目を迎えた。小泉内閣時に郵政民営化などで大なたを振るった竹中平蔵氏は、世界経済フォーラム評議員も務め、積極的な活動を続けている。同氏にインタビューを行なうと、実は深刻な日本のメディアについての見解が溢れ出てくるので、ご紹介しよう。
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日本のメディアの最大の特徴は、取材しないで書く
世界経済フォーラム( World Economic Forum)の年次総会、いわゆるダボス会議が1月21日から、スイスで開催された。今年は地球温暖化問題に関する話題が多かったほか、FacebookでLibraを担当するデビッド・マーカス氏が早期の事業開始を「楽観している」、Googleのスンダー・ピチャイCEOが「AIは人類にとって火や電力を上回る重要な技術」と発言したことなどが報じられている。日本では、昨年のG20大阪サミットの際に提示したデジタル経済に関する国際的なルール作りのための「大阪トラック」が立ち上げられたほか、東京オリンピック/パラリンピック開催されることに関連し、日本人と自然をテーマに開催される「日本博」のPRなども行なわれたが、芸能人の不倫ニュースなどに比べると日本のメディアが積極的に取り上げているとは言いがたい。
今年50回目が開催されたダボス会議には100を超える国から約3000人の実業家、国家元首を含む政治家、学者、市民社会組織の代表者たちが集い、様々なテーマについてやり取りする。ダボス会議評議員の竹中平蔵氏は、それを伝えるメディアについて次のような苦言を呈する。
「ダボス会議に行くと、リーダーは必ず自分の国のメディアの悪口をいいます。うちの国のメディアはダメだと。これはどこの国にも共通する問題です。ですが、日本はその中でもかなり特殊だと思います。
日本のメディアの最大の特徴は、取材しないで書く(笑)。これはすごいですよ」
この記事もダボス会議を取材に行かずに、ダボス会議について触れている点では竹中氏の指摘に当てはまってしまうが、彼のインタビューということでご寛恕いただきたい。
そして、竹中氏のテンションはどんどん上がり、専門的な知見を身につけていないことが問題であるがゆえに、特殊な状況になってしまうと指摘する。
「(日本の一部のメディアは)自分で書きたいことを決めていて、都合の良いところだけを取る。そうすると、あたかも違うストーリーが出来上がる。こういうことはアメリカのニューヨークタイムズはしないですよ。それは、なぜか。いろいろと理由はたくさんあると思いますが、最大の問題は日本にはスクール・オブ・ジャーナリズムが発達していないことですね」
さらに、関わる人たちの精神性、さらには構造的な問題についても切り込む。
「(ハーバード大学に)ニーマン財団というのがあるんですが、そこのトップとお話をしたときにスピリッツ・オブ・ジャーナリズムという言葉を繰り返し言うので、それは何だ、と聞いたところ、『権力から距離を置く、そして大衆から距離を置くこと』というんです。ところが、日本のジャーナリストはそういう訓練を受けていないですよね。そのうえ、新聞社のジャーナリストは、株式会社のサラリーマンであることがほとんどです。(営利企業である)株式会社に雇われている人で、かつ、ジャーナリストとしての訓練を基本的には受けていない。
さらに言うと、アメリカでは新聞とテレビは競合相手です。ところが、日本のテレビ局は、ほぼすべてが新聞の子会社。新聞は官僚の天下りを批判しますが、大手のテレビ局には、新聞から天下りの人がたくさんいるわけですよ」
過去の記事では、事実の報道よりも事件ばかりが報道されることを手厳しく批判した竹中氏。小泉純一郎元首相を例に挙げて、どんなに批判されても自分の考えを伝え、尖った議論をすることがリーダーには必要であること、また、逆風に負けずに語り続けることの大切さを説いていた。
ネットとリアルを融合した体験&コミュニーションを情報発信の方法
テレビや新聞などのマスメディアだけが情報空間で存在感があった時代とは異なり、いまでは、インターネットやSNSなどを活用した情報発信の方法がある。特にインターネットなどのウェブサイトと、直接会ってコミュニケーションのできるリアルサイトを連動した情報発信にはイノベーションの可能性があると提案する。
「最近ダボス会議が、やり方を変えているんです。常にNo.1であり続けるコンファレンスなので、イノベーティブなんですね。どういうことかというと、昨年6月に大連でサマーダボスがあったんですけれど、そこではやり方をまったく変えていた。李克強首相が来て1000人くらいの大会場でコンファレンスをやったんですが、大人数を収容するものは、それだけ。あとはHUB(軸)と呼ぶ、30人くらいの会議室で行なうセッションがたくさんある。時間も1時間ではなく、30分と短い。
これはどういうことかというと、安定した時代ではエスタブリッシュされた人に、みんなで意見を聞くのは意味があったけれど、時代がものすごく変化していますよね。こういう時代は、常に最先端の人の話を少しずつ聞いて、刺激を受けられる。ウェブ媒体でも、インタビューが中心のウェブサイトがありますが、あれとリアルを連動させて行なうんです」
昨年竹中氏もHUBの1コマでベルギーのベンチャーと、30人くらいで議論するセッションを行ない、ウェブサイトとリアルサイトが連携したタイプの「新しいメディア」の可能性を実感したという。既存のものとは別のオルタナティブな選択として、こうした体験やコミュニケーションを活発するメディアがトレンドとして注目されてくるのかもしれない。
取材・文/編集部 撮影/ANZ