■連載/あるあるビジネス処方箋
昨年末に1年間の仕事の棚卸しをした。あらためて思うのが、個々の会社との仕事のトラブルである。その場合のトラブルとは、主に次のようなものだ。
1、発注者である会社(出版社、新聞社、編集プロダクション、メーカー、ITやコンサルティング会社など)と受注者の私との間の意思疎通が時間内で正確にできない。
2、仕事の成果物(最終的な仕上がり)について双方で合意ができない。発注者の意図や狙いが、私にはわからない。質問をするが、その回答の意味がつかめない。
3、仕事(契約関係)が長く続かない。「長く」とは、3年以上を意味する。
1〜3のトラブルが頻繁に起きるのは、そのほとんどが社員数100人以下で、創業15年以上の会社だ。特に担当者が30代前半までの社員に集中している。私には、この人たちの考えていることや言わんとしていることの約8割以上が正確に理解できない。「何かを言おうとしているが、結局、何を言いたいのだろう」と考えあぐねる機会が多い。事実誤認が目立ち、歪曲して受け止めているケースが目立つのだ。大企業やメガベンチャー企業の同世代の社員たちと比べると、仕事力に疑問を感じることが多い。双方の仕事力の差は少なくとも5ランク、状況によって10ランクは異なる。もはや、同じ業界とは思えないほどだ。
彼らと仕事をするうえでの特徴は、主に以下のものだ。
[1]独断で仕事をする傾向が相当に強い。部署で、組織で、チームで仕事をすることに慣れていない。上司(主に部課長)は形式上いるが、密な話し合いをしていないように見える。他の部員もまた、独自の判断で決めて動いている。会社員である以上、常に上司に相談したうえで判断し、進めなければいけないのだが、1人で決めている。報告や連絡、相談をしながら仕事をすることがなかなかできない。会社員というよりも、個人事業主に近い。
[2]上司は、30代前半までの社員に仕事をするうえでの権限を大幅に委譲する。だが、その仕事を単独で完遂できるか否かを精査していない。通常、大企業では経験の浅い社員にここまで大胆な委譲はしていない。「なんとなくできるだろう」といった感覚で、大幅に委譲する傾向がある。結果として、経験が5年以内の社員に大企業ならば15~20年の社員たちと同レベルの仕事をまかせることが目立つ。
[3]上司は「この仕事をするように」と漠然とした指示をするが、進捗や現状、課題、問題点について頻繁に確認をしていない。せいぜい、1週間に1度くらいでしかない。結局、部下たちは独自の判断で進めるようになる。
[4]部下の経験が浅い場合、本来、上司は「確認」を毎日数回はするべきなのだが、しようとしない。限りなく、丸投げに近い。これでは、部下の仕事力は伸び悩む。同じ過ちを繰り返す傾向があるからだ。
[5]上司から仕事の隅々まで教えられる機会が少ないために、自信過剰となりがちになる。結局、経験の浅い社員も自分のことを「そこそこデキル」と思い込む。発言や行動が、大企業の同世代の社員と比べると社会常識を逸脱したものが非常に目立つ。たとえば、相手をなじったり、けなしたり、否定し、脅したり、罵倒するような類だ。会社として教育を十分にはしていないためだと私は思う。
[6]人事評価の制度が会社や社員の実態とかけ離れていたり、評価基準があいまいであったりする。評価をする管理職の多くが、「考課者訓練」を受けていない。したがって、問題社員が淘汰される機会が少ない。長年にわたり、慢性的な人材難であるために、在籍期間が一定に達すると管理職や役員になる可能性が高い。
1〜6までのうち、該当数が増えると人事の仕組みが未熟になる。このような環境では、若手社員が一定のペースで成長するのは難しい。会社員は漫然と仕事をするだけでは、力はつかない。上司が隅々までくどいほどに確認して気がつくことを指摘しないと、絶対に成長はしない。ところが、ほとんどしていない。
特に目立つのは、30代前半までの社員の相当数が「常に自分が正しい」と真剣に信じ込む可能性が高くなる。私の実感で言えば、7割以上がこのタイプだ。人から何かを指摘されると、感情的になったり、冷静な判断ができなくなったりする。結局、深い会話をするのは難しく、30代前半までの社員は自分の考えを主張するのみだ。そのことについて、上司が注意指導をすることもほとんどない。
「棚卸し」の作業を通じて痛感するのは、このクラスの会社は人事の仕組みや大企業とは別世界であることだ。あらためて思うが、人材育成という観点で捉えると、入社するのは相当な覚悟が必要になる。この規模の会社すべてとは言わないが、心得えておきたいことだ。今後、新卒や既卒、中途の採用試験を受ける時にぜひ、思い起こしていただきたい。
文/吉田典史