初代バチェラー久保裕丈さんが手掛ける”家具のサブスクサービス”への想い【中編】
常に緊張感のあるチャレンジを続けていきたいと語る、日本の初代バチェラー久保裕丈さん。現在は、月額制で家具・家電を自由にレンタルできるサービスを提供する会社の代表取締役社長を務めている。インタビュー中編(全三回)では、会社設立への想いと提供しているサービスの内容について伺った。
ーー前回の会社について、一般的には「成功」のようにも見えるかと思いますが、具体的にどのような部分を「失敗」と感じたのでしょうか?
前回の会社では、社員に対する「事業内容や戦略についての共有」「ビジョンの共有」ができていなかったように感じます。僕の未熟さもありますけども、「自分の求心力」が薄く、一枚岩じゃなかったな」と反省しました。
ーーそれらの「失敗」を踏まえて、今回意識されたことはありますか?
今回は、チーム作りやビジョンの共有をとても重視したんです。やはり最初のチームアップがとても大切で、ここで自分の持っているビジョンや理想とするバリュー・行動規範みたいなところに賛同してくれるような人たちと一緒に立ち上げないといけないなと。もちろん、立ち上げのフェーズって、”スキル重視”で人を選びがちなんですが、それよりもバリューやビジョンに合致する人かをちゃんと見極めました。
あと、ベンチャー企業は往々にして売上最優先で、他のことがおざなりになりがちです。例えば、制度設計やプロセス設計など、普通の企業であれば当たり前に整っているものがなかったりします。何でもかんでも”勢い”で走りがちなんですけど、走りながらちゃんと制度も整えていくことも大切だと感じています。この辺りが前回の自分の失敗を教訓にして、気を付けているところですね。
ーー提供している”家具のサブスクサービス”について教えてください。
自分自身の”手触り感のある身近な課題”を解決するために、このビジネスを始めました。表現としては「シンプルに自分が欲しいサービスを作った」というのが一番近いかもしれません。
サービスの基本コンセプトは、「好きな家具を、必要な時だけ、所有せずに利用してもらう」こと。現在は、個人の方はもちろん幅広い業界の方からもご利用いただいています。オフィスでの利用、ホテルやマンスリーマンション、あとは民泊とか飲食業界からの利用が多いですね。
家具の最低利用期間は3ヶ月に設定していますが、それを過ぎたら、その家具は自由に交換ができます。交換する時の手数料は一切かかりません。例えば、独身でダブルベッドを使っていた方が同棲することになり、シングルベッドが2つ必要になった時。ベースの金額(基本料金)、家具の数が変わる際には価格差が発生しますが、自由に好きなベッドに交換ができます。
必要な家具って「ライフステージごとに変わっていくもの」だと思っていて、それに応じて自由にものを交換してもらいたいという気持ちがあるんです。
現代は早いペースで引っ越しする方が増えた一方で、「意外と同じところに長く住むことになったな」というケースもありますよね。このサービスは月額制にしていますが、家具や家電を長く使うほど、価格が下がっていくシステムにしています。例えば、ベッドのベース料金は1,000円(税抜)ですが、3年目からはベースの金額が半額の500円(税抜)に、4年目以降は80%OFFの200円(税抜)になります。
リースの場合は「所有権の移転」が伴いますが、所有権を持ってしまうと捨てる時にとても大変です。うちのサービスでは、利用1年目までは返却時にそれぞれの商品ごとの返却手数料を設定していますが、それが2年目だとベースの半額に、3年目からは返却手数料が無料になります。家具を長く使っていただくとお得になるシステムです。
ーー久保さんは元々、「家具」に興味があったのでしょうか?
ライフスタイルの分野には興味があって、それではじめはファッション系で起業したのですが、”ライフスタイルの中の家具”も面白いなと思っていて。実は、家具の業界はまだまだIT化が遅れていたり、ユーザーにとっての課題、困りごとが多く残っていたりします。
僕自身もそうなんですけど、家具を買う時って選ぶのも大変だし、組み立てるのなんて”地獄のように大変”ですよね。捨てる際にも素材ゴミのシールを買って、しかも「事前に出さないでください」とか。それですぐ引き取りに来てくれるかって言うと、3週間後とかで。さすがにそんなに待てないからと便利屋さんとか呼ぶと、3万円くらいかかってしまう。
これって、ユーザーペインの塊だなという思いがあって、それを解決したいなと。家具という領域を選んだもっとも大きな理由はここにあります。
立ち上げた時のメンバーには、すでに家具の会社をやっているメンバーが2〜3人いて、どういう種類の家具を出すか、どういうデザインのものを出すかなどの専門的な部分は彼らに任せています。もちろん、知識は自分でもキャッチアップしていかないといけないのですが。
ーー「家具のサブスク」は、他社の「家具レンタル」と比べてどのような違いがあるのでしょうか?
僕の捉えているサブスクの定義は、「お客さんの状態に合わせてサービスがアップデートできること」です。Netflixも、ユーザーの好みに応じて勧める勧められるコンテンツが変わったりしますよね。今すでにある家具のレンタルサービスは、基本的にアップデートができないものが多いんです。事前に「1年使います」「2年使います」といった感じで期間が決まっていて、「それが過ぎたら返却」みたいな。
うちのサービスも3ヶ月という最低限の縛りはありますが、基本的にはいつでも交換が可能です。交換でお金かからないようにしているのは、とにかくどんどんアップデートしてもらいたいからなんです。家具のレンタルサービスとの一番の差分は、「生活に応じてアップデートできる」というところ。ここが大きな違いかと思います。
あとは、”相談”や”提案”といった部分にも力を入れていて、チャットボットも導入していますが、「何を選んだらいいかわからない」「サイズ感が合うかわからない」という場合には、お客様担当がしっかりとチャットでお答えをしています。商品交換時も、フォームはありますが、必要事項を入力していただいた後に担当者からご連絡をしています。
「部屋のサイズが合わなかったから返却したい」という時には、「こちらに変えてみたらどうですか」とご提案をさせていただくこともありますね。やはり、サブスクリプションである限り、”提案”はしないといけないと思っています。
オリジナルの家具に力を入れている点も強みの一つです。サイトにアップしているものは既存メーカーのものも多いのですが、実際に借りていただいている家具は圧倒的にオリジナル品が多いですね。
ーーどのような方にこのサービスを活用してもらいたいですか?
今は、30歳前後の方でIT企業勤務の方、フリーランスの方からの利用が多いですが、大学生になる、新社会人になるなど「新生活を始める方」に、ぜひ触れてみてほしいなと思います。
今の世の中、価格の安さだけで家具を購入してしまいあとから「物が良くなかったな」と後悔することも少なくありません。そのようなことがないよう、これから自分で家具選びを経験する方に”ちゃんと良いもの”を知ってもらい、”心地良い空間”を作ってもらいたいなと思っています。サブスクリプションであれば、最初にまとまった費用が必要になることもないですし、月額もかなり抑えているので利用しやすいはずです。
PROFILE
久保裕丈(くぼひろたけ)
東京大学、同大学院を卒業後、外資コンサルタント会社に入社。2012年、ファッションECサイト(MUSE&Co.:ミューズコー)を立ち上げ起業を果たす。2015年には同社を売却し、フリーランスとして企業顧問業を開始。その後、『バチェラー・ジャパン』に出演し一躍時の人に。現在は、家具のサブスクリプションサービスを提供する株式会社CLAS(クラス)の代表取締役社長を務める。https://clas.style/
取材・文/久我裕紀 撮影/横山 快