
お寺での参拝時は、神社と同じように二礼二拍手一礼をすればよいのでしょうか。お寺の正しい参拝順序や作法の意味を知ると、より清々しい気持ちでご本尊と対面できます。参拝のよいタイミングや服装のマナーも確認しておきましょう。
お寺参拝の基礎知識
お寺はブッダを開祖とした『仏教の教え』に基づいて建てられたもので、『神社』とは違います。「どんな目的で参拝するのか?」を考えてみましょう。
神社との違いと参拝の意味
日本人にとってはお寺も神社もなじみ深いものですが、そのルーツは全くの別物です。
神社は『神道』に基づいた建築物で『八百万の神様が住む場所』と考えられています。神社参拝の目的はご祭神である神様に感謝と畏敬の念を示し『現世でのさらなる幸せ』を願うことです。
一方、お寺は『仏教』の宗教建築で、もとは出家した修行僧が寝泊まりする場所でした。現在は大日如来や薬師如来などさまざまな仏様が安置されており、『現世でのご利益』のほかに『死後の極楽浄土』を願うことができます。
神道では死は穢れであるため、神社でお葬式をすることはありません。結婚などのおめでたいことは神社で、死に関することはお寺で行うのが一般的です。
間違えたら恥ずかしい お寺の参拝方法
全ての人が寺院の檀家になるという『寺請け制度』が江戸時代に制定されて以来、お寺は日本人にとってより身近なものになりました。しかし、『お寺参拝』となると作法が曖昧になる人は少なくないようです。
山門をくぐり、手と口を清める
寺には、神社のような鳥居がない代わりに『山門(さんもん)』があります。山門の前で合掌して一礼し、敷居は踏まずに右足から入りましょう。
山門をくぐると、手前に手水舎があります。手水舎は、神聖な場所に入る前に身を清める場所です。仏教では身体・言葉・心の3つによる『業』を清める意味合いがあります。
手水の作法は神社と同じで、右手で柄杓を持ち、最初に左手を洗い、次に柄杓を持ち換えて右手を洗います。最後に左の手のひらに水を受け、口に含んですすぎましょう。
許可されている場合のみ鐘をつく
お寺には『梵鐘(ぼんしょう)』という鐘が設置されています。鐘にはさまざまな役割があり、朝夕の時報や仏事の予鈴のほか、僧侶に修行の身であることを自覚させるために鳴らすこともあるようです。
寺の参拝においては、参拝者が来たことを仏様に知らせる合図にもなります。
鐘つきが禁じられているお寺もありますが、一般参拝者の鐘つきが許可されている場合は、『参拝前』に鳴らしましょう。参拝後の鐘つきは『戻り鐘』といわれ、死者を送るときの合図と同じになります。
お賽銭から礼までの流れ
本堂に進んだ後、お賽銭箱にお賽銭を入れます。お寺でのお賽銭は『お布施』で、自分の欲や執着を手放す修行の一つとされています。無造作に投げ入れずに、そっと下に落とすのがよいでしょう。
お寺では神社のような拍手は不要です。胸の前で静かに両手を合わせ、心の中で祈願します。
無言でも問題はありませんが、後述する『お唱え言葉』を唱えるのもよいでしょう。最後に一礼をして本堂を下がります。
香炉がある場合は線香をお供え
香炉がある場合は、ご本尊と向かい合う前に献灯と献香を行いましょう。ろうそくは人々を照らす仏様の光の象徴で、線香はお供え物であると同時に、ご本尊と人の心をつなぐための橋渡しの役目を担います。
ほかの人が供えやすいように、線香は真ん中から、ろうそくは本尊に近い奥から供えるのがマナーです。
他人から火をもらう行為は『もらい火』といわれ、他人の悪縁や業をもらい受けることを意味します。必ずお寺の種火か持参したライターを使いましょう。火を息で吹き消す行為もNGです。
参拝に適したタイミングと服装
神社と同様に、寺参拝にも適した時間帯と服装があります。仏様のいる神聖な場所であることを忘れずに、マナーはしっかり守りましょう。
時間帯は遅くとも夕方より前に
参拝してはいけない時間はありませんが、できれば、日の光が出ている日中のうちに行くのがベストです。14時を過ぎると、太陽の光がだんだん弱まっていくため、遅くとも14時頃までには参拝を済ませたほうがよいでしょう。
真っ暗な境内をうろついていると、つまずいて転倒する危険性もありますし、防犯上もあまりよくありません。
お寺によっては山門が閉まってしまうこともあるため、参拝前に時間を確認したほうがよいでしょう。
カジュアルすぎる服装は避ける
お寺を参拝する際の服装は基本的に自由で、正装をしなければならないルールはありません。
しかし、場所柄、カジュアルすぎる服装や露出が多い服装、サンダルは避けたほうがよいでしょう。清潔感のあるシンプルな洋服が理想です。
仏教には「命あるものを故意に殺してはいけない」という不殺生の教えがあります。毛皮や革製品などの『殺生を連想させるもの』は身に着けないようにする配慮も必要です。
葬儀や法事のときはお布施を持参する
葬儀や法事の際は『お布施』を持参するのが通常です。現代では戒名や読経に対する『対価』の意味合いが強いですが、本来は『自分のものに執着せず、他人に施す』という仏教の修行の一つです。
お布施の金額と包み方
お布施は本人の気持ちを表すもので、決まった金額はありません。
宗派にもよりますが、葬儀は20~40万円、法事は3~5万円が相場です。相場を参考にしながら、家計に無理のない範囲で出すのが理想といえます。
お布施は『奉書紙』または『無地の白い封筒』に入れて渡すのがマナーです。奉書紙で包むときは、お金を半紙と中包(中袋)で包んでから奉書紙をかけます。
封筒の場合は、直接お金を入れて構いませんが、表面の上部には『お布施』、下部には『〇〇家』と記すのを忘れないようにしましょう。裏面に住所や金額を書いておけばより丁寧です。
渡し方
合同法要の場合は本堂の入り口に『受付』が用意されているので、受付の人にお布施を渡しましょう。
受付がないときは、法要法事が始まる前に「今日はどうぞよろしくお願いします」の言葉とともに『僧侶』に直接渡します。慌ただしくて渡す時間がない場合は、法要法事の後にお礼の言葉を添えて渡しましょう。
渡すときは、封筒を直接手渡すのではなく、袱紗(ふくさ)または小さなお盆の上に載せるのがマナーです。『お布施』の文字が僧侶から見て反対になってしまわないように注意しましょう。
お寺での注意点
参拝時は、本尊やお寺への敬意を忘れないようにしたいものです。参拝をより充実したものにするための注意点やポイントを確認しましょう。
御朱印をいただく場合は参拝後に
『御朱印』にはお寺・ご本尊の名前・参拝の日にちが記されています。もともとは写経を納めた人にのみ渡される『信仰の証』でしたが、現在は写経を納めなくても御朱印がいただけることが多いです。
御朱印をいただく場合は、参拝後に『寺務所』に立ち寄りましょう。朱印料の相場は300~500円ですが、特別な御朱印や大きな御朱印は1000円近くかかることもあります。
『御志納(お気持ちで)』と記されていた場合は、自分で金額が決められます。
お唱え言葉は仏様によって異なる
参拝時は心の中で祈願するだけでなく、『お唱え言葉』を唱えてみましょう。お唱え言葉は、宗派や本尊によって異なります。
浄土宗や浄土真宗では『南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)』と唱えるのが一般的です。
『南無』は、サンスクリット語『namas』の音写語で『帰依する』の意味があり、『阿弥陀仏』はブッダを示します。つまり、南無阿弥陀仏は『仏様への信仰心』を示す唱え言葉といえるでしょう。
南無の後に『ご本尊の名前』付けることもできます。対面するご本尊が観世音菩薩であれば『南無観世音菩薩』、薬師如来であれば『南無薬師如来』と唱えましょう。
文/編集部