世界のマーケッターの間で注目を集めている「Inclusive Marketing(インクルーシブマーケティング)」。多様化する社会を背景に、さまざまな企業が、その重要性について考え、取り入れ始めています。
今回は、アメリカで取材した事例をはじめ「Inclusive Marketing」の現況をレポートしたいと思います。
Inclusive Marketingって何?
最近、多様なモデルやキャストを起用した広告のビジュアルを目にすることが増えたなと感じませんか?このような広告が広まってきた理由のひとつに、「Inclusive Marketing」を取り入れる企業が増えてきたことがあげられます。
「Inclusive Marketing」は、これまでメインターゲットとして考えられてきた消費者だけではなく、多様性を重視し、社会で生活する多様な一人一人のインサイトに目を向け、マーケティングに反映させる手法です。
このマーケティング手法は、「Diversity(多様性) & Inclusion (包括性)」の概念がベースとなっていて、先日NYで開催された広告とメディア業界のイベント「Advertising Week」でも、多くのエキスパートがさまざまな見解を述べていました。
エキスパート達の見解を要約すると「Diversity(多様性)は、あらゆる多様な人たちが社会にいる状態を指し、Inclusion (包括性)は、そういった多様な人たちが、組織やサービスにインクルード(含まれる)されていくアクション(実践)だ」と言えるでしょう。
近年、このような「Diversity(多様性) & Inclusion (包括性)」をベースに、人種、ジェンダー、年齢、障碍をはじめあらゆるバックグラウンドを持つ多様な人たちのニーズやインサイトを考え、包括的にマーケティングするムーブメントが世界で広まり、その結果プランニングに成功した事例も多く見られるようになりました。
インクルーシブな考え方がイノベーションを加速させる理由
マイクロソフトのインクルーシブマーケティングを担当しているMJ DePalma氏は、「インクルーシブな考え方は、イノベーションを加速させる」と言い、その例として、「8割以上もの女性が、女性をターゲットにした広告キャンペーンはステレオタイプ多く、世の中の女性を反映していないと感じている」というデータをあげました。
ここに、インクルーシブな考え方がイノベーションを起こす理由があるとMJ DePalma氏は言います。なぜなら、この例が示すように、多様化する社会では、平均的で典型的な広告戦略やクリエイティブは共感されなくなってきているからです。インクルーシブな視点で多様な一人一人のインサイトを考えマーケティングを行うことで、サービスや商品はより消費者に受け入れられ、さらに、今まで見過ごされていた新しい消費者にも出会うことができ、新しい市場が生まれるというのです。
今まで気づかなかった消費者のインサイトを考えた、新しい視点からうまれたプロダクト・サービス・キャンペーンは、イノベーティブでリアルなニーズを満たすため、大きな反響となり、結果的にエンゲージメントを上げるという成功を導くそうです。
アメリカ企業にみるInclusive Marketingの成功事例
それでは、ここでInclusive Marketingの成功事例を見ていきましょう。
マイクロソフトの「Xbox Adaptive Controller」
「誰でも使える」をコンセプトに、手が使えないなどの障碍のあるプレーヤーに向けて、入力環境を自在にカスタマイズできるインクルージョンを重視した設計になっており、さまざまな身体コンディションに応じたゲーム環境を作ることができます。
障碍のある友達がゲームで勝つ瞬間を、友達みんなで分かち合う「Reindeer Games」というホリデーキャンペーンのコマーシャルが大きな反響を呼びました。
スミノフの「Welcome Home」キャンペーン
LGBTQIA+のコミュニティを擁護する活動家、女優・プロデューサーのLaverne Coxを起用したスミノフの「Welcome Home」キャンペーンは、ストーンウォール事件から50年となる2019年6月、プライドパレードが行われる時期に展開されました。
キャンペーンムービーでは、「Happy Pride」を祝うパーティーを舞台に、「誰もが参加できるパーティー!わたしたちにはHomeがある」とLGBTQIA+のコミュニティ、あらゆる人々へ平等のメッセージが込められたダンスビートをLaverne Coxが歌います。
「Welcome Home」キャンペーンは、ニューヨークの空港などで大々的に展開され、ビルボードのチャートではダンスビート「Welcome Home」も上位にランクインするなど盛り上がりを見せたそうです。
JetBlueの「フライ・ベイビー・キャンペーン」
インクルーシブマーケティングの事例でよく挙げられるのが、数年前に展開されたJetBlueの「フライ・ベイビー・キャンペーン」です。
機内で赤ちゃんが泣く度に、乗客全員の次回のフライト代がディスカウントされ、4回泣けば往復チケットが無料でゲットできるというもので、母の日に合わせて実施されました。
abcNEWS より
乳幼児といっしょに交通機関を使うお母さんの気持ちにインクルーシブな視点でフォーカスし、子供が泣くと他の乗客に迷惑がかかってしまうという「お母さんの不安」を「みんなのハッピー」に変えるという斬新で温かいアイディアは、お母さんに限らず、多くの人の共感をよんだそうです。