こんな建設会社の社長がいる。元受刑者を雇い入れ、就労支援を行う日本財団の再犯防止プロジェクト「職親(しょくしん)プロジェクト」で、少年院を出た者たちの親代わりになっているのだ。それはカンサイ建装工業株式会社の社長、草刈健太郎さん。
元受刑者を受け入れることは、そう容易いことではない。しかし、草刈社長は苦労もいとわず、受け入れた若者たちがたとえ問題を起こしても、決して見捨てることはない。その強い信念の底にあるものとは? また再犯率低下のために何が必要かを、草刈社長本人にインタビューした。
「職親プロジェクト」とは
平成30年版「犯罪白書」~進む高齢化と犯罪~によれば、初犯者・再犯者ともに減少傾向にあるものの、再犯率は増加の一途をたどっており、平成29年には48.7%と、検挙者の約2人に1人が再犯者という結果となっている。
再犯率の増加の要因は、出所者の多くが「所持金が少ないため、部屋を借りるお金が無く、以前過ごしていた環境から脱することができない」また「前科があることで受け入れられる企業も少なく、働こうにも働けない環境」などがあるという。
日本財団職親プロジェクトは、こうした状況を受け、再犯を防ぐため、そして犯罪で悲しむ人々を増やさないため、「就労」「教育」「住居」「仲間づくり」の視点で刑務所出所者、少年院出院者一人ひとりの更生を参加企業みんなで支えるプロジェクトだ。
その参加企業の一つが、カンサイ建装工業株式会社である。
刑務所出所者、少年院出院者を受け入れ、自社で働かせ、住居も仲間も用意。そして何より、草刈社長が“第二の親”になってくれるという、心強いメリット付きである。
先刻発売された、草刈社長のノンフィクションルポタージュ「お前の親になったる 被害者と加害者のドキュメント」では、その職親プロジェクトでの草刈社長の思い、行動、葛藤などを知ることができる。
決して見捨てない。その精神の源泉とは?
一度犯罪を犯した者には、それぞれ複雑な事情がある。日々、彼らが原因で、色んな事件が起きる。しかし草刈社長は、受け入れた者たちがどんなに問題を起こして、先が見えなくなっても、絶対に見捨てない。通常であれば、とっくにさじを投げているレベルであってもだ。その精神と決意はどこからくるのか。
草刈社長:活動は、すべて自分自身のために行っています。就労者を見て、接することが自身の生きていく糧となっています。それは、ギブ、ギブ、ギブしていたらテイクが返ってくると確信したからであり、誰もしたがらないことが有形無形(心、人、物、金)の資産になると感じたからです。
加害者を作らないことが、被害者を増やさないことにつながると信じ、活動しています。2005年、脚本家を目指して米国に留学中だった妹が、同居していた米国人の男に殺害されました。その後、青年会議所の活動でカンボジアに行き、東日本大震災の現状を目の当たりにし、いろんな出会いの中で、職親プロジェクトに関わることになりました。
お世話になった方に頼まれて始めたので断れず、頃合いを見てやめようと思っていた職親プロジェクトでしたが、妹を殺され、どん底の私でした。しかしカンボジアや東日本大震災で、大変な想いをしながら生活している人に会う中で、私の想いも少し変わり、職親プロジェクトに私を誘った方が、私の妹の件を知らなかったということを知り、職親プロジェクトの参加が必然で、妹に託されたものであると確信しました。
覚悟を決めて取り組んでいた職親プロジェクトですが、就労者を受け入れ、仕事と住居を与え、それぞれに起きることに付き合う中で、1人、また1人と成功例ができたことが、今日続いている理由かもしれません。
また、ある方に「因果応報」と言う言葉を教えていただきました。「因」は原因の「因」。「果」は結果の「果」。結果だけ求めると内容がないために薄いものになります。しかし、時間をかけて原因を調べれば、すべてが理解できるとのこと。そして、どんな原因にも結果があり、「縁」でつながっているそうです。このことを知ったことで、改善へのとっかかりを見つけたように思いました。