■連載/ヒット商品開発秘話
アイリスオーヤマの『極細軽量スティッククリーナー』の中で、モップと業界初の「静電モップクリーンシステム」を搭載したモデルが売れている。対象となるのは、2018年6月に発売された下重心の高機能タイプと、同年12月に発売された上重心タイプの2種で、1台で部屋全体の床掃除とモップ掃除が同時に行なえるのが特徴だ。これまでに累計10万台販売されているという。
お蔵入りになったモップクリーナーのアイデアが復活
「静電モップクリーンシステム」とは、掃除で汚れたモップをキレイにして繰り返し使えるようにするもの。ケースから取り出して帯電させたモップで、掃除機では取りきれない細かな汚れを吸着したら、掃除機のスタンドに差し込んで除電すると同時に、吸着した汚れを掃除機本体で吸い取る。スタンドにモップを差し込むと除電されるのは、中に放電プレートが設けられているためで、掃除機に汚れを吸い込めるのはモーターで回転するパワーブラシをヘッドに搭載したためである。
スタンドに掃除機をセットした状態でゴミを吸着した付属のモップを差し込むと、モップの除電とクリーニングを行なう
商品が構想され始めたのは2016年頃。フラッグシップモデルとして検討され、 2017年に入り具体的に企画される。
こだわったのは、付加価値を高めるアイリスオーヤマらしさをプラスすることであった。アイデアを探るアイデアミーティングを何度か実施したものの、なかなかアイデアが出ず困っていたときに浮上したのが、モップとモップクリーナーをプラスすることだった。
実は、モップクリーナーはかつて社内で提案されたものの、お蔵入りになったものであった。家電開発部 マネージャーの河阪(こうさか)雅之氏は、次のように話す。
「家電メーカーである前に生活用品メーカーである当社は、以前から清掃用品を扱っています。使い捨てのハンディモップのシートが高いことから、汚れを掃除機で吸い取ったり外で汚れを払って使い続けている人が多いことに着目して、2015年にハンディモップをキレイにするモップクリーナーを社内で提案したことがあります」
モップクリーナーは技術的に難しいことや単機能な割に高コストなことなどから実用化されなかったが、アイリスオーヤマらしいということから、アイデアが復活することになった。
モップのサイズはエアコン掃除のしやすさを基に決定
採用することにしたモップは、使い捨てではなく繰り返し使えるもの。静電気で汚れをキャッチ&リリースする。
モップに求められたのは、帯電しやすく取ったゴミを掃除機で吸い取ったらキレイになる繊維の使用であった。市販されているモップを買い集め検証したが、最適なものはナシ。購買部門の協力を借りて探したものの難航し、探し当てるまでに半年ほどかかった。
探し当てた繊維は、ポリプロピレンのスプリットヤーンにクリンプ加工(縮れ加工)した特殊なもの。中国ではつくっているとこが見当たらず、日本でも数社でしか生産していない。
モップは大きさも検討事項になった。使いやすく掃除機とのバランスも考慮したサイズを追求した結果、市販の使い捨てハンディモップよりやや長くし、高いところも掃除できるよう柄を伸ばせるようにした。柄を伸ばせるようにしたのは、エアコン上部のような手の届かないところも掃除できるようにするためであった。「モップと柄を延ばしたときの長さは、エアコン掃除をしてみて決めました」と河阪氏は振り返る。
付属するモップの比較。高機能タイプのモップ(左)は本体に沿うように収納するため柄が曲がっているが、上重心タイプのモップ(右)は本体横に収納するため柄がまっすぐだ
「静電モップクリーンシステム」は、モップクリーナーとはまったく別のものになった。その主な理由は、過去に企画したものは静電モップをクリーニングするものではなかったためである。