2.アジア人をターゲットにした商品づくり
ニューヨーク発祥のLady Mだが、主要顧客はアメリカ人ではなくアジア人である。店舗を訪れると、来店客の9割はいつも中国人をはじめとするアジア人である。
そのため、アメリカ合衆国内では、アジア人比率が高いと言われているカリフォルニア州にNYに次いで多くの店舗を出店している。
テイストもアジア人が好む甘さひかえめで繊細なものに仕上げており、抹茶のミルクレープなど和の素材を使用したものも用意している。
またケーキ屋でありながら、中国で中秋節の贈り物に用いられている「月餅」もシーズンになると販売しており、中国をはじめとするアジア人から人気を博している。
アメリカで店舗展開をしながらもアメリカに住んでいるアジア人をターゲットにした商品づくりを行ったことで、アジア人から支持を得ることに成功した。
現在は中国にマーケットを集中させており、上海・北京、深セン…と様々な都市に続々と店をオープンしている。Lady Mのマーケティング担当者は「SNSを通じてアメリカ在住のアジア人からの口コミが中国本土に伝わっているため、大掛かりなプロモーションをしなくとも繁盛している」と述べている。
3.ライフスタイルに溶け込んだ贅沢スイーツ
1個1,000円の高級ケーキにラグジュアリーなインテリアの店内。
日常生活では縁のない、特別な時にしか利用機会のない「贅沢スイーツ」というイメージを与えるLady Mだが、その一方で「ライフスタイルに溶け込んだ身近なスイーツ」というイメージも同時に与えている。
一見矛盾するこのブランドイメージを上手に共存させているところが、Lady Mのブランディングの巧さであろう。
Lady Mでは、ミルクレープやチョコレートケーキなどオールシーズン取り扱っている定番ケーキに加え、母の日にはバラを使ったミルクレープを、夏はサッパリとしたパッションフルーツを使ったミルクレープを提供するなど、毎月季節やイベントに応じた限定ケーキが提供されている。
Lady Mのケーキで季節を感じて欲しい。家族の絆を深めて欲しい―。そんな想いが込められた、生活者に寄り添ったブランドが作られているのである。
あるいは4月のエイプリールフールには、ミルクレープをピザに見立てた写真をSNSで投稿するなど高級ブランドでありながら、遊び心も見られる親しみのあるブランドになれる施策も実施している。
ラグジュアリー感を出しながらも、お高くとまったブランドではなく、生活に溶け込んだ親しみのあるブランドを創り出したことで、多くの人の心を掴めたのではないだろうか。
日本の誇るべきスイーツ「ミルクレープ」の名を世界に広めた「Lady M」。
日本に逆輸入される日も近いかもしれない。
文/小松佐保(Foody Style代表)
一橋大学経済学部卒業。
日本&シンガポールのブランドコンサルに勤務した後、独立しアメリカ・ボストンへ。
会社員時代に生活習慣の乱れが原因で体調を崩したこと、ボストニアンの心身共にヘルシーなライフスタイルに感化されたことで、「食×健康」領域に関心を抱くように。
現在はボストンと東京を行き来しながら、食×健康領域に関わる企業のマーケティングコンサルや海外展開サポート、コラムの執筆等を行っている。