「みんな山口さんじゃないんです」
山口も自分自身の足りない点に気づいている。パシャのテストマーケティングで、キャンペーンを行なった時のことだ。画面は仕上がっていたが、裏側のシステムが開発途中だった。それが原因で、ユーザーから送信されてきた2万3千件のレシートを、スタッフ全員で1週間かけ、目視で処理をする事態となってしまった。
「行ける、大丈夫だ、何とかできるんじゃないか!」そんな思い入れが強い分、機能に不安があっても突っ込んでしまう。ブレーキをかけなければいけないのに、度が過ぎてしまう。失敗する時はそんなパターンが多いと、山口は自覚している。
「それじゃ、みんな付いていけないよ」時にはパシャのメンバーの中で、ブレーキ役のスタッフが彼に声をかける。
何のために提案しているのか、メンバーに伝わっていないのではないか、そんな時、彼は自問自答する。
「みんな山口さんじゃないんです」それは前職の部下の言葉である。彼は部下に任せ、考えさせるタイプだ。自ら考えてやれる人ならそのやり方が通用するが、考えが及ばずに何もできない部下もいる。任せるだけではなく自分がある程度、部下と一緒になってやることも必要なのかと思っているが――
「オフラインという領域において、コアになる可能性があるから、まずは事業を大きくしろ。大きく仕掛けていい」それは先日、上司である副社長から、発せられた言葉だ。
正直に言うと、人、物、資金、それら経営資源をもっと自分に権限移譲してほしい。個人的に反省すべき点は、多々あると自覚しているが、彼のパシャを推進する姿勢は今、拍車がかかっている。
山口高志、34才。妻と二人の娘がいる。7才になる上の娘には週5回、フィギアスケートを習わせている。さすが高級取り、そんなこちらの言葉に、「かなり無理してますよ」と、彼は笑顔を向けた。
取材・文/根岸康雄
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