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身近な人の行方がわからなくなり、生死さえも不明な状態になることがある。警視庁によると、令和4年の行方不明者の届出受理数は8万4,910人(前年比5,692人増加)となっている。
残された家族は残された財産を勝手に処分もできず、婚姻関係がある場合は再婚もできない。そんな時、新しい人生に踏み出すことができる手続きが「失踪宣告」だ。
失踪宣告の申立てが可能になる期間は?
失踪宣告とは、生死が明らかでない状態が一定期間続いた時に不在者を法律上死亡したものとして扱うための手続きだ。失踪の宣告については民法第30条などで定められていて、「普通失踪」と「危難失踪」がある。配偶者や相続人などの「利害関係人」が申立人となり家庭裁判所に申し立てることが可能だ。
失踪宣告の種類。「普通失踪」と「危難失踪」とは
普通失踪は、「不在者(従来の住所又は居所を去り,容易に戻る見込みのない者)につき、その生死が7年間明らかでないとき」(※裁判所のHPより引用)に用いられるもの。
危難失踪は、「戦争,船舶の沈没,震災などの死亡の原因となる危難に遭遇しその危難が去った後その生死が1年間明らかでないとき」(※裁判所のHPより引用)に用いられるもので、事故などに遭ったことまでははっきりしているが、生死が不明な場合を指す。危難が去ったあと1年を経過すると失踪宣告ができる。
【参考】失踪宣告(裁判所ホームページ)
失踪宣告に必要な書類と費用
失踪宣告の申立てには、所定の申立書に記入して必要書類を揃えた上で、収入印紙や官報公告料などの費用を添えて家庭裁判所に提出する必要がある。
失踪宣告の申立てに必要な書類
- 申立書
- 標準的な申立添付書類(不在者の戸籍謄本、不在者の戸籍附票、失踪を証する資料、申立人の利害関係を証する資料)
失踪宣告の申立てに必要な費用
- 収入印紙800円分
- 連絡用の郵便切手(申立てする家庭裁判所へ確認)
- 官報公告料4816円(失踪に関する届出の催告3053円及び失踪宣告1763円の合計額)
【参考】失踪宣告(裁判所ホームページ)
普通失踪の失踪宣告を申立てる場合の7年間の起算点は?
普通失踪の場合、生死が明らかでないまま7年間が経過すると失踪宣告をすることができる。この7年の計算を開始する起点は、不在者の生存が認められた最後の時点だ。
失踪宣告を申立てた場合の法律上の死亡日は?
失踪宣告がなされた場合の死亡日は、普通失踪と危難失踪で異なる。普通失踪の場合は生死不明となり7年の期間が満了した時。危難失踪の場合は、船の沈没などの危難に遭遇し、その危難が去った時点と定められている(民法第31条より)。
失踪宣告の申立人は市区町村にも失踪の届出が必要
失踪宣告をしただけでは戸籍に記載されない。失踪宣告の申立人には届出義務がある(戸籍法第94条より)。これによって戸籍に記載される。
失踪宣告の戸籍への記載例
失踪宣告の申立人が失踪の届出をおこなうと、戸籍には「死亡したとみなされる日・失踪宣告の裁判確定日・届出日・届出人」の記載がされる。
失踪宣告書(失踪宣言書)が見つかった場合は?
失踪の意思を自ら書き残した置き手紙などの書面を、「失踪宣告書」や「失踪宣言書」と呼ぶ。これは公的な書面ではないが、警察が捜索活動を積極的に行わなくなることがある。
失踪宣告すると離婚扱い? 死別扱い?
失踪宣告をすると配偶者が死亡したのと同様に扱われる。婚姻関係は解消するが、失踪宣告の場合、不在者の親族との姻族関係も勝手に終了はしない。(民法第728条2項・戸籍法第96条より)。
なお、配偶者の一方の生死が不明の場合は、失踪宣告によらず離婚ができる。民法第770条では離婚の訴えを提訴できる要件を挙げているが、その1つに「配偶者の生死が三年以上明らかでないとき」があるからだ。この場合、裁判で離婚が認められれば、相続ではなく財産分与が行われることになる(民法第771条が準用する第768条より)。
失踪宣告をしたら財産の相続はいつから? 放棄はできるの?
失踪宣告がなされると相続が開始する。ここでは相続放棄や相続開始について紹介する。
なお、相続に関する基礎知識として欠かせない「被相続人」や「相続人の範囲」などは以下の記事を参考にしてほしい。
親族に故人が出ると起きる相続。ここでは意外と知らない被相続人と相続人の違い、そしてかんたんな相続手続きの解説を行います。 被相続人とは何? 被相続人の意味は? ...
相続放棄は失踪宣告のあとから
相続放棄とは相続人が被相続人の権利や義務の一切を承継しないことをいい、「初めから相続人にならなかったものとみなす」(民法第939条より引用)。相続放棄は相続開始前にはできないため、失踪宣告を求める手続きを先に行う必要がある。
例えば不在者が残した借金の返済義務を負いたくない場合などは、先に失踪宣告の申立てを行い、失踪宣告がなされたあと原則3か月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述をすることになる(民法第915条1項より)。
財産や負債の相続・相続放棄は、相続税が関わる場合も多い。失踪宣告のケースはもちろんだが、相続全般の知識として課税対象財産と非課税財産についても知っておくと役立つはずだ。
相続税額を算出するには故人の財産を全て把握する必要があり、非常に手間がかかります。自身で相続税額を算出してみたい人は、まず課税される条件を確認しましょう。課税対...
失踪宣告をした場合の相続開始日は?
相続は被相続人の死亡によって開始するため(民法第882条より)、失踪宣告の場合は死亡したとみなされる日から相続が開始する。普通失踪の場合は7年の期間が満了した時、危難失踪の場合は危難が去った時が相続の開始日となる。
失踪宣告はそれだけで周囲の人々に大きな心理的負担をかけるが、さらに相続が加わることで手続きの煩雑さも大幅にアップする。死亡扱いとなった被相続人の財産や負債を調べる方法は知っておいて損のない知識だ。あわせてチェックしておこう。
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失踪宣告で遺族年金は受け取れるの?
失踪宣告によって不在者は死亡したことになるので、不在者によって生計を維持していた配偶者または子供は要件を満たしていれば遺族年金を受けられる(国民年金法第37条・第37条の2より)。また、不在者が年金を受給していなかった場合は、要件を満たす遺族は死亡一時金を受け取ることができる(国民年金法第52条の2より)。
失踪宣告によって年金の返還義務が生じる場合もある
年金の受給者が死亡した場合は、死亡後に遺族が受け取った年金は返還する決まりがある。失踪宣告をすると失踪者は死亡扱いになるため、年金事務所に死亡届を出さずそのまま年金を受け取り続けると、年金の過払いがあったものとして返還を請求されることがあるので注意したい。
現在では、年金を受給している人の所在が1か月以上明らかでない時は、世帯員には届出を行う義務が課せられている。そして、受給権者本人から現況報告書が返信されない場合は年金の支払いが一時停止されるため、年金の過払いが生じにくい制度になっている。