どんな仕事にも、光と影が存在する。気になるあの仕事に就く人に、外からは知りえないやりがいや苦難など、仕事の裏側について話を聞く。第1回目は、ドン・キホーテ新宿店の店長、村越大輔さん。ドン・キホーテは、全店舗が直営店でありながら、商品選定からレイアウトまで、店舗に関わるほぼ全ての権限は店長と店舗スタッフにある。村越さんがその責任と一緒に得たものとは。
競争社会の中で、自分に何ができるのか試したい
22歳で、前職の広告代理店を退職しました。その頃、ドン・キホーテに行くのが楽しくて、友人としょっちゅうお店に行っていたんです。ふと、「楽しさを提供する側になってみたい。」と思い、会社説明会に参加することに。その流れで、面接を受け、採用。あっという間にドン・キホーテ社員になりました。当時、一番大変だと聞いていた、食品を扱う第4事業部への配属を希望しました。世の中的にも、企業が年功序列から、実力主義へとシフトし出した頃で、若い自分がその競争社会の中でどう見られるのか、何ができるのか、試したかったんです。
食品売り場の責任者(MD)として店舗に配属されると、商品選びから、陳列、売上管理など、その売り場に関わること全てを任されます。実際に働いてみて、お客様のことを考えずに、売り手目線でいると、商品が売れないことも学びました。入社から2年半ほど経つ頃には、お客様との会話や、売り場の演出など、自信を持つようになっていました。しかし、すぐに壁に直面しました。他のMDの仕事を目の当たりにし、「なぜあんな発想ができるのだろう。自分はこのレベルには行けない」と、自分の限界を感じてしまったんです。仕事を辞めたいとまで思っていた時、エリア責任者である上司が声をかけてくれました。「周りと同じようにする必要はない。お前らしく、お客様に訴えかけたら良い。」その言葉で、「もう少しやっていよう」と思うことができました。また、単純な落とし込みが、自分にとって意味があると気付きました。「売上が悪い理由は?」「それを解決するにはどうすべきか?」単純に考えれば良いんだと、肩の荷がおりました。考え方や行動が変わったことで、次第に売上が上がり、自信にもつながりました。上司は一言で言うと、威厳がある人で、普段は怒られないよう気を使っていたのですが、同時に居心地が良いと感じる自分がいました。ここまで働き続けられたのは、上司の存在が大きいです。
「店長なのに、そんなことも分からないの?」異例の人事に、冷たい目も
2013年、蒲田駅前店のMDと店長を兼任することになりました。私が担当する食品売り場の商品数は、菓子や酒など約5000点。MDと店長を兼任するのは、当時としては珍しい人事だったようです。それまで、食品のMDしか経験がなかったため、「店長って何をするの?」という感じでした。他カテゴリーのMDから、「今パイル生地のタオルが人気」と言われても、「パイル生地」が何かわからない。とにかくわからないことだらけでした。「そんなことも分からないの?」そう言われたのは、一度や二度ではありません。悔しいというよりも、恥ずかしい。とにかく、わからないことはメモして、聞きました。また、「店長が一番偉い!」と思っていなかったので、MDに対しても、アルバイトに対しても、敬語を使い、平等に接しました。入り口前の一番目立つフリースペースの売り場に置く商品を決める際には、各カテゴリーの売上など、データをきちんととった上で、理解してもらえるまで話し合いました。私は食品のMDでもあるので、説明なしに食品を置いてしまうとトラブルの元になります。そうしてスタッフとやり取りを重ねていくにつれ、冗談を言ったり、飲みに行ったりするほどまで、社員やアルバイトとの信頼関係ができていきました。その後は、上野店、浅草店、中目黒本店などでの店長、エリア支社長を経験し、2019年に新宿店の店長になりました。