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名前を呼んだり、声を掛けたりするのはNG!甘やかし厳禁のトラの飼い方

2019.07.21

あれ!?……何かヘンだ

で、今年の1月29日の朝、獣舎に来ると、シズカが親の仇みたいな表情で僕を睨むんです。あんな睨み方をされたのは初めてでした。

なんだよ、なんでそんな目で見るんだ……、シズカとは信頼関係を感じていますから、僕は軽くショック受けまして。でも、あの時、シズカは難産のまっ最中だったのです。

助けてくれっ!!という目だったに違いない。8年ぶりの出産で産道が固くなっていて、子供がなかなか出ない。よほど苦しかったのでしょう。掃除が終わった10時過ぎに破水がはじまりました。そして、ギャー!と子供の泣き声が獣舎に響きわたった。

2頭目が産まれたのは12時半ごろ。そして3頭目は気づいたら出産していました。

シズカは赤ちゃんの身体をなめたてきれいにしたり授乳もしている様子で、かいがいしく世話をしていたんです。その日は隣の部屋にエサを置いて帰宅して。翌朝もシズカは、しっかり赤ちゃんの面倒を見ている様子でした。

シズカは子育ての経験があるし、大丈夫だろうと。この日も帰宅するつもりで夕方、獣舎でエサの肉を切り分けていたんです。するとシズカが檻越しに僕に飛びついてきて。

あれ!?……

何かヘンだ。子供に対する執着が薄れているような……。

泣き声に反応してシズカは子供のところに戻り、鼻をフフンと鳴らしているけど、どうしても気になる。シズカを別の部屋に入れ、思い切って中に入り子供を確認しました。1頭は息がない。もう1頭はわずかに動く程度、元気なのは一頭だけだ。

僕はダンボールに麻袋を敷いて、3頭の赤ちゃんを入れ、スクーターで園内の動物病院に駆けつけました。「すぐに温めないと」、保育器に入れるより人肌で直接温めるほうが早い。僕が弱っていたメスを病院の係長がオスを、服で包むようにしてお腹の中に入れて。1時間ぐらい温め保育器に移し、ミルクを与えたんです。するとオスは元気よく飲みはじめましたが、メスは飲むことができずに……、翌朝、死にました。

授かった命、ショウヘイ

部屋の中に入る判断が遅れたから、2頭の赤ちゃんは死んでしまったのかもしれない。そんな思いがこみ上げてきて気持ちがヘコみましたね。でも、死んだメスの2頭を解剖すると、脳内出血を起こしていて助からない命だったんです。固くなった産道を先に生まれた2頭が、脳内出血を起こしながらも広げてくれたおかげで、最後に生まれたアムールトラのオスは生きることができた。

授かった命はショウヘイと名付けました。大谷翔平選手から頂いたんです。母親から赤ちゃんを一回取り上げてしまうと母親に戻すことはできません。最初は哺育器に入れ3時間おきにミルクを与えて。ショウヘイは人工哺育で大きくなりました。

トラの赤ちゃんは、ぬいぐるみのように可愛いです。しかし、甘やかすと動物としての本能が削がれてしまい、依存心が強くなり自立心が育たない。本来なら母親にべったりの時なので、飼育員にじゃれつきますが一切無視して。言葉に反応しないようにするため、生後2ヶ月頃から声もかけないよう気をつけています。

ショウヘイは5月23日からトラ舎で公開されましたが、展示の檻の前には「名前をよんだり声を掛けたり、人に反応させることはすべてショウヘイのためにならないので、やらないでください!!」という内容の注意書きを貼りました。

子供のアムールトラは実に愛らしいのですが、よろしくお願いいたします。ショウヘイは野性に戻しても、生きていけるようなトラに育てたいのです。

取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama

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