知って納得!リニアに運転士がいない理由
――ところで、リニアは運転士がいないと聞きました。時速500kmで無人走行というと不安になる読者もいるかもしれませんので、どのように無人運転を実現させているのか、教えていただけますか?
実は、リニアの車両自体には動力装置がないんです。簡単に言えば、超電導磁石のついた浮かぶ箱。列車は先ほど触れました推進コイルと呼ばれる部分に電気を流すことで、はじめて動くことができます。つまり、レールが車両を動かしているイメージです。そのため車両に運転士は不要で、全て地上からコントロールする、無人運転というわけです。宮崎の実験線時代から、リニアは外部の指令室で操作していました。山梨の実験線になってからも無人で、事故なく試験運転を続けています。
――2027年に品川~名古屋が開業、その後、大阪へと延伸される予定ですが、なぜ今、東京~名古屋~大阪に新たな高速鉄道を建設するのでしょうか?
東海道新幹線は今年で開通から55年。品川~名古屋のリニアが開業する頃には60年を超えています。人間で言えば還暦を迎える訳です。現在ももちろん、最新の技術を取り入れつつ万全の整備を行っていますが、やはり今後は経年劣化対策、場合によっては一部の列車を運休させての大規模なメンテナンスも行わなければならない可能性もゼロではありません。東京~名古屋~大阪の高速鉄道は日本の大動脈。列車が運休すると、経済活動に大きな影響が出てしまいます。そんな時、東海道新幹線とリニアの2つがあれば、片方が運休になった場合でも、もう片方で補完できます。また、今後発生するであろうと予想されている南海トラフ地震に対しての備えにもなります。
リニアが品川~大阪を最速67分で行き来できるということは、首都圏、中京圏、近畿圏の1つの大きな都市圏になるようなもの。巨大な都市圏が形成されたら、日本経済の活力になるでしょう。
――リニアによって東京、名古屋、大阪の結びつきは強くなりそうですが、リニアが通らない東海道新幹線の沿線の街と、東京、名古屋、大阪との結びつきは弱くなるのではないでしょうか?
逆に東海道新幹線沿線も活性化すると考えています。東海道新幹線は現在、のぞみ号を中心とした運行体制となっていますが、大阪までのリニア全線開業後は、のぞみ号の本数を減らし、静岡や浜松に停車するひかり号や、各駅に停車するこだま号を増発することを計画しています。そうなれば、これまでのぞみ号が通過していた各駅と、首都圏、中京圏、近畿圏のアクセスが良くなり、通過駅の沿線は活性化するでしょう。また、東海道新幹線は山陽新幹線と直通しているので、首都圏から乗り換えなしで新神戸、岡山、広島へ向かえます。2027年にリニアが名古屋まで開業し、その後大阪まで延伸しても、優位性が大きく下がることはないでしょう。
――最後に開業へ向けて一言お願いします。
リニア中央新幹線は、当社だけでなく、各メーカーの技術が結集した日本独自の技術で作られています。開業へ向け、さらにブラッシュアップを続けていきますので楽しみにしていてください。
東海旅客鉄道 常務執行役員
中央新幹線推進本部 リニア開発本部長
寺井元昭さん
1981年、国鉄に入社。東海道新幹線の浜松工場で車両のメンテナンスに携わる。国鉄の分割・民営化でJR東海へ。1988年鉄道総研へ出向し、宮崎の実験線でリニアに関わって以来、リニア一筋。
【ご購入はコチラ】
Amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B07STGZM3L
楽天 https://books.rakuten.co.jp/rb/15967800/
7net https://7net.omni7.jp/detail/1213245340
取材・文/渡辺雅史 撮影/ANZ