“素直すぎる”若い人たち
ある女性部下も若手である。この部下は絶対に逃げ出すようなことをしない。ある企業はパーソルキャリア社が運営する転職サイト「doda(デューダ)」のサイトに、エンジニア(SE)募集を掲載した。仮にそれに百数十万円かかったとする。人材の支援が完了したら、残りの金額を請求させてもらうサービスだった。媒体側の担当者はその企業に、SE経験が1年の転職希望者を紹介すればいいと認識していた。だが先方の企業は、どうしても5年はSEの経験を積んだ人を紹介してほしかった。
「しかし、SEの経験が5年もある人は多くの企業が欲しがっています。なかなか難しい」
「でも経験5年の人を紹介してくれる約束で、お金を払ったんだ」そんな食い違いが生じたのだ。
担当の女性の部下の元には、その企業の人事担当者から連日のように、「おたく媒体にお金は払ったんだ。早く紹介してほしい」という語気の荒い連絡が入る。
部下の女性は媒体の担当者と企業の人事担当者の間に挟まれ、苦しい立場だったが逃げずに対応した。松崎も部下とともに先方の企業を訪ね、事情を説明したが、「経験豊富なSEがいないと、うちも売上げが立たないんですよ……」という感じで、担当者も本当に困っている様子だ。
「なんとか候補者を出してください!」部下の女性は、キャリアアドバイザーに頼み込んだ。登録をした転職希望者の相談を、最初に受ける役割がキャリアアドバイザーだ。
「規模は小さいですが、トップは元エンジニアで社員を大事にします。男性の育児休暇も取りやすい、理念のある会社です!」若手の女性社員の必死さが伝わったのか。キャリアアドバイザーから転職希望者に、企業の魅力を説明してもらい、適した人材の紹介が実現して、その企業には大変喜ばれた。
トラブルにも逃げることなく、解決に向け全力を尽くした若手の女性部下だが、一方で松﨑のように気が強いわけではない。お客を納得させる力が弱かったり、人からガガガッと強く言われると、萎縮しまうところがある。
自分が悪い。私はこの仕事に向いてないんじゃないか……。時にはそんなマイナス指向に陥ってしまう。彼女に限らず、昨今の若い人は自分の悪いところばかりに目がいく傾向が、あるのではないかと松﨑は感じている。なぜなのか。
つまり自分を振り返り、小さなことでも成功体験を確認する、そんな考え方をすることに不慣れなのではないか。彼女にとってそれに気づいたことが、チームリーダーとして、部下に接する時の一つのヒントになっていく。以下後編へ。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama