“やってみなければわからないじゃないか”
「いっぺんこれまで築いた仕込みをバラして、ゼロから作ろう」とは言っても、これまでの開発で味を整え、食感を付けている。ある程度組んだものは壊しがたい。
研究所の仕事なので、材料名等は機密厳守なのだが。仮にその原料をAとしよう。まずは“当たりづけ”と言って、その物質が使えるかどうか、試してみる。作ったものを研究員が試飲した段階でAはあまり芳しくなく、使わないほうがいいと思われていた。ところがある研究員は「Aをもう一回、試してみましょう」と主張した。
「でも、Aはこれまでの結果で使わないほうがいいとなったんだよ。開発に時間がない中であえてそれをやる必要があるのか」他の研究員が異議を挟む。時間がない中であえてそれをやるかどうかがポイントだった。
「でも前とは条件も配合も変えているし、試してみる価値はあると思うんです」そして、その研究員は実際にやってみた。すると結果が出たのだ。研究の過程で他にもブレイクスルーがあり製品は完成したが、全体の3〜4割はこのAという原料が貢献している。川馬はAを発見した部下の研究員をこう評する。
「先輩がこう言ったから、今までがこうだったから、そんな話を素直に受け入れるタイプの研究員だったら、試さなかったでしょう。自分が組んだのは新しい配合だ。“やってみないとわからないじゃないか”そんな気持ちを強く持っている部下だったんです」
ダメ元でもトライする精神こそ、次のステージを開く、それは研究員ならずとも中間管理職にとって、頼もしい部下である。
後編は研究員を束ねるマネージャーの極意を語る。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama