「婚外子」とは、婚姻届を提出していない男女の間に生まれた子どものことだ。近年では、さまざまな理由があってシングルマザーとして子どもを育てる親も増えている。
とはいえ、相続問題をはじめ、婚外子として育てていくうえで不安が多いのも事実。この記事では「相手から養育費は要求できるのか?」「相続が発生した場合の割合は?」など、未婚の親が知っておくべき「婚外子に関する知識」をお届けする。
【婚外子知識その1】出生数に占める婚外子の割合
そもそも、婚外子が全体の何%を占めているかご存知だろうか?
厚生労働省の調べによると、2006年度時点で日本における婚外子の割合はわずか2.11%に留まっている。では、諸外国と比べた場合はどうだろうか?
厚生労働省が公開している、各国と比較した婚外子の割合
上図は厚生労働省が公開しているデータだ。各国と比べてみても、日本の婚外子割合が極めて低いことは明らかだ。
日本に婚外子が少ない理由は、「結婚してから出産するのが普通」、「婚外子は社会的な保障が不十分」という風潮が、現在も広く浸透していることが大きい。
「事実婚」が社会に広く浸透しているスウェーデンやヨーロッパでは、婚外子の割合も多く約半数を占める。こういった国々では、婚外子は嫡出子と同等の権利が保障されており、不当な差別を被ることも少ない。
日本でも、法律上では婚外子と嫡出子の差別はない。相手に養育費も請求できるし、相続が発生すれば受け取る権利もある。
ただし、それらを請求するためには「認知」が必要である。
【参考】厚生労働省 「平成27年版厚生労働白書―人口減少社会を考える―」
【婚外子知識その2】各種手続きに必要な婚外子の「認知」、そのメリットとは?
認知とは、子の父親が「親であることを認める手続き」のこと。認知の方法は以下の2パターンがある。
任意認知
父親が自ら「認知届」を役所に提出する方法
強制認知(裁判認知)
父親が認知を拒否する場合に、認知の訴えを提起する方法
シングルマザーの中には「相手とはすでに別れているので、認知してほしくない」、「認知のメリットがよく分からない」という人もいるだろう。しかし、認知をすることで得られるメリットはいくつもある。ここからは、「認知の重要性」を順に解説していく。
婚外子は戸籍上ではどう記載される?
認知されている場合と、されていない場合のケースを分けて解説しよう。
1. 認知されている場合
戸籍の父親欄には、認知をした父親の名前が記載される。また、父親の戸籍にも認知をした旨の記載がなされる。
2. 認知されていない場合
出生届を提出した際、子は出産した母親の戸籍に入る。この時点で、父親の欄は空欄となる。
なお、平成16年10月以前は、婚姻を結んだ男女間の子(=嫡出子)は戸籍に「長男」「長女」などと記載されるのに対し、婚外子は「男」「女」と記載に違いがあった。しかし、平成16年11月1日以降は婚外・婚内関係なく「長男」「長女」と記載されるようになった。
【参考】法務省「戸籍における嫡出でない子の父母との続柄欄の記載の変更について」
婚外子を認知しない場合のデメリット
では、婚外子を認知しないとどのようなデメリットがあるのか? 挙げられるのは主に以下の3点だ。
1. 養育費の支払いを強制できない
認知すれば、父子相互間に扶養の義務が生じる(民法877条1項)。だが、認知しない場合、養育費の支払いはあくまで任意となり、相手に強制できなくなってしまう。
2. 相続権がない
認知すれば、子は父親の相続人となる(民法887条1項)。したがって、認知されなければ相続の権利は与えられない。
3. 母親が外国人の場合、子が日本国籍を取得できない
母親が外国人で父親が日本人の場合、婚外子が認知されていないと、出生と同時に子の日本国籍を取得できない。このケースの対処法は、出産する前に子を認知してしまう「胎児認知」がもっともポピュラーな手続き方法である。
婚外子を認知した場合1:養育費
養育費の額は、基本的に当事者同士の話し合いで決まることが多い。もしも話し合いで合意できなければ、家庭裁判所に調停を申し立てることになる。
婚外子の養育費の相場はどれくらい?
ちなみに、養育費の相場はいくらなのか? 払う側の年収、受け取る側の年収、子どもの年齢によってバラつきはあるものの、子ども一人あたり3〜8万円/月で計算されることが多いようだ。
婚外子を認知した場合2:相続
婚外子の問題で、養育費と並んで厄介なのが相続問題だ。認知することで法的に父子関係が生じるので、婚外子であっても嫡出子と同様に相続の権利が得られる。この詳細は、次の項目で解説していこう。
【婚外子知識その3】婚外子の相続事情
愛人との間に生まれた子どもや不倫相手との間に生まれた子どもなど、父親が生前に認知することをためらうケースがある。そういった場合、遺言で認知を希望することも多く、本人が死亡した後でも遺言状があれば認知が行われる。
父親が亡くなっていた場合でも、婚外子が相続の権利を得る可能性はあるのだ。
【参考】相続を遺言で行いたい人が覚えておくべき「遺留分」とは?
養子、甥、姪、被相続人の兄弟、孫は相続人になれるのか?覚えておきたい「相続人」の定義
婚外子・嫡出子の相続権をめぐるトラブル
相続関係でトラブルになりやすいのは、父親が亡くなった際に「未認知の婚外子がいた」、もしくは「知らされていない認知済みの婚外子がいる」と発覚したときだ。
とくに後者は、相続の手続きで取り寄せた戸籍を見れば必ず明らかになる。「戸籍に載っている=認知されている」なので、隠し子にも遺産を相続する権利がある。仮に隠し子を除いて遺産分割協議が行われた場合、その協議は無効になるので覚えておこう。
婚外子の相続分は嫡出子と同等
かつて、婚外子の法定相続分は嫡出子の2分の1であるとされていた。法が改正された現在は、婚外子・嫡出子の相続分は同等になっている。
この法改正には、ある裁判の判決が関わっている。それが、次に述べる最高裁の大法廷である。
【婚外子知識その4】不平等な相続…法律で規定された婚外子差別の象徴
以前、民法900条4号には「非嫡出子の相続分は嫡出子の2分の1」と規定されており、「婚外子に対する差別の象徴である」とながらく批判されてきた。この婚外子差別を大きく塗り替えたのが、2件の遺産分割審判での判決である。
「婚外子相続差別訴訟」、最高裁にて憲法違反との判決
2013年9月4日、結婚していない男女間に生まれた婚外子の相続分を、嫡出子の半分とする民法の規定の合憲性が争われた。大法廷の裁判官は満場一致で「憲法違反」と判決した。この決定を受け、2013年12月5日、民法の一部が改正されたのである。
日本社会のライフスタイルは日々変化しており、婚姻や家族の形態も多様化している。今後ますます形にとらわれない家族の在り方が増えてくることだろう。
そこで重要なのは、必要な知識を養い、我が子が将来不利にならないようにすることだ。これから婚外子として子どもを育てていくならば、可能な限り「認知」の手続きを行っておきたい。養育費や相続など子どもの権利を守るためにも、この記事を「認知」について真剣に考えるきっかけにしてほしい。
※データは2019年6月下旬時点での編集部調べ。
※情報は万全を期していますが、その内容の完全性・正確性を保証するものではありません。
文/ねこリセット