だって虚しいじゃないですか……
ちょっと聞きづらいことですがって、何ですか。かまいませんよ。そんな場に立ち会いつらくないか、嫌にならないか、看護師を辞めたいとは思わないかって。
辞めたいとか嫌になるとか……、意識したことは一度もありません。消化器外科は急性期から緩和ケアまで学べる病棟です。患者さんとたくさんお話をし、病状の経過に寄り添っている私は、患者さんがガンと向かい合い、どれだけ頑張ってきたか、どれだけ戦ってきたかを知っています。最期まで寄り添いたい。最期は楽になってほしい、辛いこと、痛いことはなるべく取り除いてあげたいって。
でも、時には落ち込むこともありますよ。30代の患者さんで「オレは家に帰って子供を風呂に入れるんだ」と言っていましたが。すでに末期ガンで。若い看護師に身体を拭かれるのは羞恥心があるから、「女房がきたらやらせるからいい」と。あまりお話をすることもできませんでした。
病状が進み、看護師に一番近い治療個室に移ることを勧めましたが、そこに移るとお迎えが近いとわかるので、「行きたくない」と。「息子さんがきた時に、すぐに会えるように移りましょう」そうお願いをして。私が夜勤の時に最期を迎えられましたその患者さんは事前に、DNR指示(蘇生処置拒否指示)がありませんでしたから。
「女房と小さい子供を残しておまえ、なにやっているんだ!!」親戚の方が、そう呼びかけベッドを囲んだ家族が泣き崩れる中、心停止をした瞬間から、私はひたすら心臓マッサージをした。
えっ、なんで涙を流すのかって。だって虚しいじゃないですか。
あー私は何もできなかったって、辛かった……。
後編も話は続く。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama