スポーツシューズのスペック・機能を入れ、きちんとした「靴」にする
津端氏の言葉を借りれば、長いこと変わらなかった上履きは「シーラカンス」。親たちの中には、「便所のスリッパ」と喩える人もいる。上履き長年変わらず、「そういうもの」という認識が定着し、お金をかける対象とはならなくなっていた。
子どもたちの足型計測から浮き彫りになった現実と、スポーツシューズをつくってきた経験の2つを合わせて見ると、上履きは「靴」と呼べる代物ではかった。「上履きをきちんとした靴にするため、スポーツシューズのコンセプト、スペック、機能を入れ、子供たちから支持されるかっこいいものをつくろうと思いました」と津端氏は話す。
しかし中には、スポーツシューズブランドの『瞬足』で上履きを展開することに違和感を覚える人もいることだろう。『瞬足』ブランドで展開することにしたのは、ブランド力があることに加えて、親たちの間で『瞬足』は高機能シューズという認識が強いからであった。新たなブランドを立ち上げるよりも、『瞬足』のブランド力とイメージを生かすことにしたのである。
最新の足型データを元にラストを新設計
『瞬足@SCHOOL』がまず、それまでの上履きと違うところはサイズ感である。足のサイズに関する最新のデータを活用してラスト(足型)を設計。昔に比べて細くなった足幅に合わせ、それまでの2Eから1.5Eに変更し、フィット性を高めた。
また、踵のホールド性も高めた。それまでの上履きの踵はペラペラで安定性がないことから、歩くと足が傾き、履き続けると外反母趾になる恐れがある。そこで、上にまでせり出したヒールスタビライザーによって踵をしっかりホールドし、ソール一と体成形することで踵を踏めないようにした。
足幅のフィット感向上と踵のホールド性アップのほかには、
●蒸れを予防し臭くなりにくくしたメッシュアッパーの採用と通気孔の搭載
●足への負担を軽減する衝撃吸収材の採用
●足の自然な動きに合わせた屈曲性
といった『瞬足』に生かされているノウハウを活用。このほか、昔ながらの上履きにはないトゥスプリング(爪先を床面から離すために入れるすき間)を設け、転びにくくするなどした。
『瞬足@SCHOOL』の靴底。爪先付近に通気孔が確認できる。踵付近に見える赤いものは衝撃吸収材
売り場づくりにこだわり小売店への提案を強化
『瞬足@SCHOOL』を完成させた同社は、2016年秋と2017年春の2回、愛媛県松山市でテスト販売を実施。上履き売り場ではなく、『瞬足』と同じ売り場で同じ見せ方をして受け入れられるかを検証した。
テスト販売では、『瞬足うわばき』と銘打ち陳列。カートンボックスを新しいデザインにするなどして売り場をつくり販売したところ、成績は上々。手応えを得て全国展開するに至った。
愛媛県松山市でのテスト販売の様子。このときの商品名は現在と違い『瞬足うわばき』
全国販売後は、他の上履きとは別に独自の売り場をつくってもらえるよう、小売店への提案を強化。その甲斐もあり現在、予想を超える400店舗近くで取り扱われている。この中には、ABCマートのような靴の大手チェーン店も含まれている。
売り場づくりと同様にこだわったのが機能の伝え方。POPで特徴を示すとき、機能のベネフィットを簡潔に伝えることにした。通気性が向上したことを伝えたいときに、「通気性15%アップ」ではなく「蒸れを抑える」と表現するといった具合だ。「『瞬足』を知らない母親でも興味を持ってもらえるよう、機能の伝え方には気を配りました」と津端氏は話す。
そして『瞬足@SCHOOL』の売り方が他の上履きと決定的に違うのが、テレビCMの放映である。上履きでテレビCMを流したのは、ほぼ例のないこと。「日本の上履きを変える」という触れ込みが本気であり、多くの人に知ってもらいたいということがよく伝わる販売施策だ。