もしかして、考え過ぎ?
酒造りで重要なのは一にコウジ、二にモト(酵母の元になる母酒のこと)、三にツクリ、酒造りの工程のこと。この三つと言われます。すっきりした味を基調としたうちのお酒の設計は、製造のトップである杜氏と社長とで決めています。僕が今、携わっているのは仕込み作業。実はこの仕込み作業が酒造りにとって、一番大切なのではないかと、僕は思っています。理想的に炊き上がった酒米がすべての基本ではないかと。
まず、前日に酒米を洗米し浸漬タンクに入れ、酒米の水分が30〜35%になるまで、水を含ませます。翌日、ベルトコンベアで酒米を連続蒸米機に運び炊き上げる。連続蒸米機の釜の構造上、蒸気の上がりやすいところと、そうでないところがあります。均等に完璧に炊き上げるためにはそこを見極め、酒米の盛り方を微調整する必要がある。この時、炊き上がった米の蒸気で目の角膜を傷めないよう細心の注意を払わなければなりません。コンベア状の放冷機に炊き上がった米が流れてきます。酒米は熱過ぎても冷まし過ぎてもダメ。コウジ菌を撒いて、コウジを繁殖させる酒米は30度ぐらい、仕込みに使う米は6度ぐらいまで冷やします。
一定の温度を維持した酒米を、繰り込み機といって米をほぐす機械に通し、ホースで自動的にタンクに送り込みます。ところがある時、僕がちょっと目を離したスキに、ホースの中で米が詰まってしまって、繰り込み機が米でいっぱいになって動かなくなってしまった。
や、ヤバイ!!
あわてて、放冷機を止め、手作業でホースと繰り込み機に詰まった米を手でかき出して何とかしましたが。
「たまにあることだ。大丈夫だよ」と、先輩の蔵人には言われました。
「林くん、考え過ぎだよ。思い詰めて体調を崩さないようにな」70を過ぎた大先輩の蔵人にそう声をかけられたのも、このアクシデントで落ち込んでいる時でした。
微生物相手の酒造りには完璧ということがない。いちいち煮詰まったり、考え過ぎたりしていると、体が持たないぞというアドバイスだと受け取りました。
日本酒が好きで、蔵人の世界に飛び込んだ林さんだが、実は酒は弱いのだという。酒の席での失敗談はけっこうあって、それは後編で。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama