■あなたの知らない若手社員のホンネ~永井酒造株式會社/林 知洋さん(24才、入社3年目)~
いろいろな職種で孤軍奮闘する若手社員を紹介しているこの企画。若手の理解に戸惑っている中間管理職には、若手を見直すきっかけに、若い世代の読者には同世代がどんな仕事に汗を流しているのか知るためにぜひ参考にしてほしい。今回は群馬県の造り酒屋の蔵人の登場だ。
シリーズ51回、永井酒造株式會社 製造部 林知洋さん(24・入社3年目)。周囲を田おこし前の田んぼに囲まれ、遠くに雪を抱く山々が連なる群馬県利根郡川場村に、従業員約30名の永井酒造の酒蔵がある。明治19年創業の酒蔵を代表する清酒は「谷川岳」と「水芭蕉」。「どちらもすっきりとしたお酒ですが、酒飲みはキリッと辛口な谷川岳。柔らかい味わいの水芭蕉はどちらかというと女性的なお酒です」(永井則吉6代目蔵元)。
林さんは酒造りを担う蔵人を自ら志願し、地元の水上の酒造メーカーの門を叩いた。なぜ酒造りに魅せられているのだろうか。
酒を造るのはオレたちじゃない
地元の酒蔵に就職して、酒造りをしたいと父親に告げた時は怒られました。親は自分と同じ公務員になってくれるものと思っていたようでしたから。そもそも酒の味を教えてくれたのは父で、20才のお祝いに、永井酒造の「水芭蕉」の純米吟醸酒を贈られまして。それがうまかった。それまで日本酒はほとんど飲んだことがなかったのですが、水みたいにグイグイと飲めたんです。それから日本酒にはハマって、大学3年の時は長野県の蔵元に、住み込みでインターンに入りました。
シーンとした仕込蔵に一人でいると、清酒の前段階のもろみの入った大きなタンクから、ブクブクっと音が聞こえてくる。タンクの中のコウジが作った糖分を酵母菌が食べ、炭酸ガスとアルコールに変えている、発酵が進んでいる証で、微生物の音色が心に響きました。
「酒を造るのは微生物だから。オレたちの仕事は微生物を誘導させてあげることだ」とは、この世界に入り、先輩の蔵人さんに教えられた言葉です。
地元で開催される赤谷湖上花火大会は毎年、ボランティアとして参加しますし、僕は地元の利根郡みなかみ町が好きです。最初に感激した日本酒が「水芭蕉」でしたし、地元の永井酒造に就職したいと。募集はありませんでしたが、自ら電話して、蔵の見学を経て就職を決めました。
念願の酒蔵に就職してまず、この蔵元が機械化されていることが驚きでした。インターンで勤めた長野の酒蔵は、酒造りの先頭に立つ杜氏を含め、10名でも人手が足りないぐらいでしたが、年間の製造量は1500石(1石は180ℓ)。うちは杜氏と蔵人、5名で年間3500石と、群馬県内では1〜2位の量を製造します。
例えばコウジを造る部屋で、炊き上がった酒米に均等にコウジ菌を広げるため、手で酒米を広げたり盛ったりしながら、温度調節する蔵元もあります。うちのコウジ作りは最初だけ手作業でやり、あとは機械で熟成させます。職人の手作業の方が、お酒に力強さがあるという声もありますが、人の手作業を極力省くことで雑味を抑え、すっきりした味に仕上がります。それぞれの良さがあり、そこは個人の好みですね。
こうしてお酒の説明ができるのも、蔵人になって良かったことです。酒屋さんが一般の人向けに主催するイベントや、近年海外では日本酒ブームなので、成田空港の試飲販売会にも営業担当と一緒に出向いて「水芭蕉」を提供します。
「何か、味がすっきりしていますね」試飲された方のそんな反応には、「蔵元によって仕込みの水が違うんです。うちの川場村の井戸水を初めて飲んだ時、何か綿菓子を口に含んだような、ほんのりとした甘さがふわっと広がる感覚でした。“酸がきれい”という言い方をしますが、このお酒はすっきりとしてほのかな甘みがあって飲みやすいです」
「お燗はしない方がいいんですか?」
「純米吟醸は米とコウジと水からできていて、お燗をするとバランスが崩れる場合があります。冷酒がお勧めですね」
こんな感じでお酒のことで、人と話ができる機会が持てるのは嬉しいです。