総額4億7000万円の資金調達を実現
当時から数十社の大手企業の受託がある、技術力はきちんと評価されている会社でしたが、僕が入社する前までは財務や経理関係は社外の税理士に丸投げしていました。数字がきちんと把握できていなかったから、儲けの正確な数字もはっきりしなかったし、経理面での計画も立てられない状態でした。
経理、財務、法務の業務を社内で完結できるようにしようと。まず、自社で数字を把握するところからはじめました。実体としてどのくらい経費がかかっているのか。書類はありますが整理されていない状態で。どの経費をどの科目で切るのか。人件費、消耗費、旅費、広告宣伝費等、経費のルート作りを決めていきました。
それまで担当していた社外の税理士に、ヒアリングをしながら、徐々に自社でできるよう移行し、決算の数字を出せるまで2〜3ヶ月かかっていたのが、自社でやるようになると、1ヶ月で数字が出せるようになりました。
一方で開発主導型のベンチャー企業ですから、大手企業からの受注等で収入があっても、プロダクト開発への投資に手抜きはできません。ですから会社は赤字なわけで、金融機関から借り入れしなければいけない。資金繰りを組むのですが、借り入れのタイミングを間違えると、資金が足りなくなり厄介なことになる。銀行とは借り入れの時期についても、話し合いをしました。
AIを使った音声対話システムの開発という、うちの主な事業内容にポテンジャルを感じたのでしょう。銀行も融資に対して積極的で、貸したい意向の強さを感じました。
それと並行して僕がこの会社に入った時点で、ベンチャーキャピタルからの資金調達が経営陣の中で検討されていたのです。経理、財務、法務担当の僕は、入社直後からベンチャーキャピタルの重鎮たちが集まるミーティングに、いささか萎縮しながら同席をしました。
僕は今後の事業計画や資金繰りについて、意見を述べましたが、CEOや経営陣は、「うちが持っている音声対話システムは、音声の認識技術がまだまだだ」「日本語のしゃべりにも課題があるし、きちんと売れるプロダクトにするための研究、開発の支援をお願いしたい」そんな議論を積み重ねました。
ベンチャーキャピタルは多かれ少なかれ上場の際に、株式から得られるゲインを目標にします。でも「上場だけにこだわるのではなく、長くお付き合いをしていく中で、技術の発展や会社の将来性を理解してくれるところと組みたい」と。
ベンチャーキャピタルは、技術的に可能性がある会社とコミットします。僕が入社して1年後の17年8月、開発拠点のある高知市が発展する期待を込めて高知銀行と、株式会社産業革新機構を引取先とした第三者割当増資等により、総額4億7000万円の資金調達が実現しました。
AIテクノロジーを駆使した製品の研究・開発に取り組むベンチャー企業は、将来性が見込まれているのだろう。近年、これら新興企業がベンチャーキャピタルから、数億円の資金調達を実現させる例は珍しくない。
資金繰りにも余裕ができて、長屋さんとしては会社の基盤固めを加速させていきたいところだが。思うようには行かないところもある。自分の足りない点の吐露も含めて詳細は後編で。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama