店の前でダンスパフォーマンス
次の下丸子ではピザ作りに励みました。うちのピザメイクマイスターの資格を得るためには、オーブンで焼き上げた時に、生地が1㎝以上膨らまなければいけない。下丸子店でそんなピザ作りを教えてくれた“師匠”は、18歳の女の子で。
「遅いよ」「はい」「ピザの生地を伸ばすんじゃなくて、手を早く動かして回転させる要領で、ほらきれいにできたでしょ」という感じで、“師匠”に厳しく指導されました。
4店目の戸越店で、初めて店長になりまして。店長で最も大事なのはクルーと呼ばれるアルバイトのシフトを組むこと。学生が多いので特に冬のテスト期間中と、みんな遊びたい夏休みはシフトが組みづらい。
店長はクルーとのコミュニケーション能力が問われます。「キミが休むと、代わりの人が出なくちゃいけないよね。順番で休んでいこうよ。みんな仲間なんだから、助け合っていこうぜ」クルーとそんな話をして。「今度の日曜、閉店してからご飯食べに行こう」とか、そんな時は僕のおごりで、日頃からみんなと楽しくやることを心がけます。
長野の松本市に初めて出店するという話を聞き、手を挙げたのもクルーと一緒に店舗を運営するのが嫌いでなく、楽しかったから。松本市での初の新店舗、松本桐店の店長を任されたんです。驚いたのは冬場、路面が凍結してしまう。路面が滑ってピザの配達が危険だ。
「デリバリーは止めよう。クルーを危険さらすわけにはいかない」「じゃどうするんですか?」「みんなで、持ち帰りを促進しようじゃないか」と。
何をしたかというと、「2枚目ゼロ円」「コーラ一杯無料」「笑顔で接客やってます」とか書いたボードを両手で持ち、スタッフ全員で店の前で列を作り、ダンスパフォーマンスを披露したんです。踊りながら、僕は率先して大声を出しました。
そんな甲斐もあって、売り上げは伸びました。8ヶ月間店長をやって、今度は長野市の店舗の店長に手を挙げて。
幾多の失敗を重ねながら、クルーと一緒になった様々な取り組みが、数値目標を満たすことにつながり、スーパーバイザーに昇進したのは昨年2月。現在は長野、山梨、静岡の3県12店舗を管轄しています。
チェリストから宅配ピザ店の社員に転職して、まったく後悔はありません。演奏はクリエイティブですが、上司に言われています。
「日常的にやっているのはルーティンワークだ。クリエイティブに考え、自分で何をしていくか。それが仕事だぞ」と。
今、僕はチェロとは違う演奏を奏でている。そんな実感があります。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama