「24時間、戦えますか」とは、バブル期における栄養ドリンク「リゲイン」の有名なキャッチコピー。
それが平成大不況時の90年代後半は「その疲れに、リゲインを」「たまった疲れに」と疲労困憊なビジネスパーソンに寄り添うようになり、2014年に発売されたリゲイン エナジードリンクのキャッチコピーは「24時間戦うのはしんどい」と、セルフパロディ的に初代キャッチコピーを真っ向から否定しているのが、なんとも面白い。
このリゲインのキャッチコピーにおける変遷を見てもわかるように、ビジネスパーソンの働き方、そして、それを取り巻く環境・価値観は時代と共に大きく変わってきた。
今回、そんな平成時代における働き方・働く環境の変遷を、バブル期(1990年前後)、就職氷河期(2000年前後)、人生100年時代(現代)に分けて振り返り、さらに、働き方の専門家であるdoda編集長・大浦征也氏による新元号以降の展望を紹介していきたい。
働き方はどのように変化したのか?
バブル期
「24時間、働けますか」という流行語があったように、労働集約型で、長時間働き会社に貢献することが美徳とされた時代。働き方が画一的だったので、長く働くことが成果につながった。
出典:1994年8月1日日本経済新聞夕刊
就職氷河期
会社にヒエラルキーが出てきて、伸びている会社は人が足りないことが常態化。従来の採用では追いつかず、女性などこれまで主戦力として活躍できていなかった人に活躍してもらうために、多様な働き方を受け入れることが求められた。
人生100年時代
就職氷河期の時代に始まった「多様な働き方」が大きく広まり始めた。テクノロジーの進歩も相まって、時短勤務、在宅勤務なども実現し、自由度が高まってきている。
「働き方改革」が謳われるが、導入しはじめたばかりなので、画一的で短期的・そして断片的。まだ模索している状況。
新元号時代
場所を選ばない働き方が今以上に普及すると予想される。ただし、どの会社でもどんな仕事でも誰でも、ということではなく、中にはテレワークを取り入れない会社、個人もいる。
必然性があれば、テレワークも選択できるという、効果的で多様性がある時代に。それ以上に、生産性を高めることに注力する企業が増えるだろう。
出典:総務省統計局「労働力調査」
出典:総務省「平成30年版 情報通信白書」
<まとめ>
「長時間労働時代」は終わりを迎え、今は「働き方改革時代」へ突中。新元号では「効果的かつ多様性の時代」へと変遷することが予測される。
ワークライフバランスはどのように変化したのか?
バブル期
バランスという考え方はなく、ワーク一辺倒の時代。社会人は仕事が全てに優先する。だからこそ、内助の功と言って、妻は家を守り、男性が全力で働ける環境を提供することが美徳だった。
出典:内閣府「婦人に関する世論調査」「男女平等に関する世論調査」
「男女共同参画社会に関する世論調査」「女性の活躍推進に関する世論調査」
就職氷河期
ワーク一辺倒が通用した理由は、「会社は潰れないので、頑張れば生涯安泰」だったから。それが崩れたこの時代、働く個人は徐々に「会社のためだけに働くこと」への疑念が生じる。
一方、まだ生産性向上が出来ていない企業は、厳しい社会環境を生き抜くために、長時間労働を強いることも。会社が求める働き方と、個人の求める働き方にギャップが生じ始めた時代。
人生100年時代
これまで「ライフ」と「ワーク」は相反するものと捉えられていたのが、ライフの上にワークがあるという考え方に変化。「ライフキャリアレインボー」と言う考えがあり、「子ども」「学生」「職業人」「家庭人」「配偶者」「親」「余暇人」「市民」の8つのロールと年齢ごとの5つのステージで考える。
例えば、20代は「学び」と「職業人」であることに重きを置き、65歳以上では「余暇人」「配偶者」としてのロールを重視するなどということを意識する。
ここでは「ワーク」は「ライフ」を占めるロールの一つに過ぎない。人生100年時代と言われるからこそ、自分の人生の中で、「いつ、何に力を入れるか」のバランスをとることこそが大切だと意識されるように。
出典:doda<20代~60代の会社員1,200人対象>
「転職に対するイメージ」「理想の働き方」に関する調査」
出典:厚生労働省「毎月勤労統計調査」
新元号時代
これからはより「ライフ」と「ワーク」の対立構造がなくなってくる。「ライフ」と「ワーク」を切り分けるというよりもライフステージの中で、どこに比重を置いていくかバランスをみていくなど、「ワークとライフ」のバランスに関する概念が変わっていくだろう。
出典:日本能率協会(JMA)「2018年度新入社員意識調査」
<まとめ>
「ワーク一辺倒の時代」はバブル期まで。バブル崩壊~就職氷河期の間に生じたワーク一辺倒主義への疑念は、人生100年時代のワークライフバランス主義隆盛の原動力となり、新元号以降は「ライフとワークが対立しない時代」へ変化すると予測される。
社内制度や福利厚生はどのように変化したのか?
バブル期から就職氷河期にかけて
バブル期までの福利厚生は、社員食堂があり、寮や社宅が完備され、自前で家を買うと住宅手当がつく。社内運動会やレクリエーション、社内の部活動への補助金、社員旅行も定期的に開催。会社を単位としたコミュニティ内で、平等に手厚く社内制度や福利厚生が整備されていった。一種、「ご褒美」のような意味合いさえあった。
これがバブル崩壊から就職氷河期になると、福利厚生制度が会社に、アウトソーシング化することに。
徐々にみんなが同じ物を求めない、画一的な生活から人によって生活の違いが大きくなったことが背景となり、自分が利用したいものを選んで活用するカフェテリア型の福利厚生に変化していった。
出典:1999年10月14日日経産業新聞
出典:2005年12月27日日経新聞
人生100年時代
会社のブランディングや社内の関係性の象徴として、社員食堂を整備するなどの企業はあるものの、「その人らしい、その会社らしい働き方」を実現するためのツールとして、社内制度が生かされるようになってきた。
社員の求めるものが変化してきたため、「給与天引き」から「プラスアルファの給与」で還元し、何に使うかは自由に選択できるようになっている。
その結果、いわゆる福利厚生は減っている。また福利厚生や社内制度の方向性として、社員の知識習得のための補助や業務環境改善など「従業員エンゲージメントの向上」のための福利厚生へと変化している。
出典:2012年日本経団連「福利厚生費調査
出典:2017年5月31日日経産業新聞
新元号時代
副業の解禁やテレワークなど自由度が高く働ける状況作りや業務で使用する機器の拡充などを始めとした、仕事自体を充実させることに会社が重きを置くようになったため、福利厚生の考え方や形態が変わってきた。
これからはカフェテリア型とはまた違う形で、その会社が社員とどのような関係を結びたいか、社員がどのような働き方をしたいかに合わせた、多様な社内制度が出てくることは想像できる。
働き方が多様化するならば、福利厚生、社内制度も多様化するのが必然だ。
<まとめ>
福利厚生は「手厚さ重視型」から「カフェテリア型」へ変化。今後は「その会社らしさやその人らしさに重点を置いた多様型」へ移行するものと思われる。
会社の人間関係や付き合い方はどのように変化したのか?
バブル期
社会人にとって、会社が優先された時代。就業後は飲み会、週末はゴルフや会社の運動会と非常に濃密な人間関係が構築されていった。人間関係=会社の人との付き合いという色合いが濃かった。
就職氷河期
バブル期までの「会社の中の縦社会」を基準とした人間関係が徐々に希薄になっていった。それに変わって、学生時代からのつながり、趣味のコミュニティなど、会社に属しない「横のつながり」での人間関係が出てきた。
人生100年時代
会社の人との人間関係は見方によっては希薄に。社外活動が増え、他の選択肢が増えており、会社だけの人間関係に頼ることはなくなった。そのため、仕事をする仲間と一緒に飲みに行くなどのプライベートでの付き合いは減っている。
出典:2018年8月27日東京新聞
出典:2018年11月20日東京新聞
出典:doda<全国の20代のビジネスパーソン男女300人を対象>
「職場の飲み会」に関する調査
新元号時代
現在の状況が加速して、リアルで会うことにもこだわらない人間関係に。
働き方が多様化することで、縦社会とされる会社組織のコミュニティだけではなく、会社以外のコミュニティも増え、さらにSNSなどを通じた人間関係の構築も選択肢として広がっていくことに。
<まとめ>
「会社内の縦のつながり重視時代」から「会社以外の横のつながり拡充時代」へ変化。新元号時代にはSNS隆盛の影響もあって、さらに人間関係の選択肢が増える見込み。
オフィス環境はどのように変化したのか?
バブル期
一人に一つの机、一台の固定電話があり、部課などの組織ごとに明確に席次が決められ、「どの席に座っているか」で社内、組織内でのポジションまでわかる状態だった。今では考えられないが、仕事をしながらタバコが吸えた時代。
就職氷河期
この頃から、オフィス環境が労働生産性を高める要因になることが意識され始める。フリーアドレスの導入、デザイン性が高いオフィスなど、試行錯誤されていた時代だと言える。
人生100年時代
駅近かの高層ビルにオフィスを構えるだけでなく、社内に和室を作ったり、坪庭を作ったり、カフェをつくったりする企業も出てきた。
一方で、テレワークを導入する企業にとっては、オフィスは場所も、環境も問わないようになってきており、あえて簡素なオフィスへ移行する企業も出てきている。
出典:2009年9月14日日本経済新聞夕刊
新元号時代
働き方の多様化で、オフィスの形、場所、デザイン、設備に捉われないように。採用のためのブランディング、顧客へのブランディングのためにデザイン性が高いオフィスを求める企業もあれば、多くの従業員がテレワークのため、郊外の簡素なオフィスやシェアリングオフィス、コワーキングスペースで問題ない企業も増える。
出典:KOKUYO
<まとめ>
「固定の席に固定の電話が当たり前の時代」から「フリーアドレス導入やデザイン性重視」へ変化。今後は「多様な働き方に合わせた多様なオフィス」が求められる時代になる。
システムはどのように変化したのか?
バブル期
バブル末期にようやくパソコン通信が使われだした時代で、インターネットは活用されていなかった。銀行の基幹システムなど、クローズドなシステムこそ使われていたが、一般的には会社にシステムがなかった時代だと言える。
就職氷河期
インターネットは普及していたが、企業のシステムは会社ごと、業務ごとに構築されていて、それぞれが独自性を持っていた。
その会社専用のシステムが出来上がっていることがステイタスであり、転職すると新たなシステムを覚えることから始めなければならなかった。
人生100年時代から新元号時代
いまや多くのシステムがクラウド化され、共通化されているため、転職しても同じシステムを使用できることも増えた。全く新しいシステムを覚える必要性は薄くなった。
むしろ、専用システムを持つことは資産面、運用面で企業の負担になるため敬遠されることも。
今後は、この流れが加速し、フリーランスやパラレルワーカーも同じシステム上で働けるように変わっていくだろう。
<まとめ>
バブル期の「システムがない時代」を経て、就職氷河期には「会社独自のシステム」へ進化。今後は「どの会社で働いても同じシステムが使えるようクラウド化」が進む。
<総括>これからは、働き方を自分のライフステージ、志向に合わせて選択していく時代に。
高度経済成長期からバブル期までの「会社」を中心とした時代では、会社へ忠誠心を誓うような状況だったこともあり、ロイヤリティや従業員エンゲージメントを高めるための給与制度、福利厚生制度が存在していた。
そのため、会社中心のワークライフバランス、人間関係、オフィス環境が構築されていたが、就職氷河期からは、どんどん会社の存在感が希薄になっていく。
現在は、会社と個人がフラットになり、「ライフワーク」の概念が変化している時代。今後は、働き方を自分のライフステージ、志向に合わせて選択していく時代になり、そのための多様化が進み、今はその流れが加速している過渡期と言えるだろう。
出典元:doda PR事務局(㈱プラチナム内)
構成/こじへい