■連載/ゴン川野のPC Audio Lab
Introduction
XI AUDIOはヘッドホンアンプからスタートしたメーカーで、設計しているのはマイケル・シャオ氏である。彼はLotoo『PAW Gold』の開発にも関わっており、独立して最初に作ったのがフラッグシップの『Formula S』。このモデルはシャオ氏が惚れ込んだ平面駆動型ヘッドホンJPS Labs『Abyss AB-1266』を完璧に駆動するために設計されたアンプである。このヘッドホンアンプはAbyssの設計者であるジョー・スキビンスキ氏に認められ、内部配線材と電源ケーブルはJPS Labsから提供を受けている。次に彼が製品化したのがDACである。それが『SagraDAC』なのだ。
以前の名称は『R2R DAC』と呼ばれていた。その名の通りラダー抵抗型であり、デンマークのSoekris Engineeringに特別注文したZR-2Rモジュールを搭載。27bit信号をディスクリートで処理するため、シリコンバレー製の誤差0.012%という高精度抵抗を216個搭載しているのだ。
Design
そもそも、ラダー抵抗型DACはPCM信号をデコードするために生まれた方式でCD時代から存在している。日本ではマルチビットDACと呼ばれ、その最高峰がBurr-Brown「PCM1704」である。このチップには抵抗の精度を出すためレーザートリミングという手法が使われ、一般的なDACより10倍ぐらい高価なのだ。bit数が増えるに従って製作の難易度が上がり、別のアプローチとしてデジタルシグマ変調を使った1bit型が登場した。
この方式を使えば、PCM信号を1bit化することにより、最終的に設計が容易なローパスフィルターを使ってアナログ信号が得られるというメリットがある。また、DSDネイティブ再生に対応できる。マルチビットDACは基本に忠実に帯域ごとにD/A変換しており、1bitDACはオーバーサンプリングやデジタルフィルターなどの工程を経てD/A変換をおこなっている。現在のDACは、ほとんどが1bit方式かハイブリッドで、純粋なマルチビット方式は100万円以上のハイエンドモデルにわずかに見られる。
『SagraDAC』は指先に載るマルチビットDACの中でおこなわれている過程をディスクリートにすることで部品単位で精度や音質にこだわり、さらなる高音質を追求したDACである。当時、マルチビットでbit数を増やすのが困難だった理由は、基準となる抵抗の精度が上げられなかったという事情があった。しかし、現在は高精度な抵抗が入手できるようになり、本機は誤差0.012%の抵抗を左右で216個使ったラダー抵抗DACを搭載。27bit処理をディスクリートでおこなっている。外見は地味だが、内部の基板にはチップ抵抗が整然と並び、いい音がしそうな感じなのだ。ディスクリートなので、ローテクということはなく、CHORDなどが使っているFPGAチップも使われている。またHDMI端子を使ったI2S入力にも対応してラズイパイをHDMI変換基板経由で接続できる。
出力はバランス対応だが、内部はシングル構成になっている。その理由としてシャオ氏はバランスにするためには回路規模を2倍にする必要があり、回路が複雑化して部品点数も増えて、コストもアップする。その結果、得られるのはS/Nの向上だけ。本機はS/N比120dBあるので、あえてバランス化するメリットは少ないという。