“名人”級の凄い職人
左官業は例えば、10平米の壁を20万円で塗りますとか請負う、工事の依頼主とは請負契約になります。請負にはデメリットな面もあって。設計事務所の人とは多くの場合、うちの文京区の会社のショールームで打ち合わせをしますが、最近のことです。ショールームを訪れた設計事務所の人が、展示してある白い壁の上の方にモシャモシャっと、黒い点を帯状に配した壁が気に入りまして。
ドライウォッシュという材料なのですが、写真を見て施主も納得し、これでいこうと。ところが、仕上がりに施主が満足しなかった。「イメージが違うのでやり直してください」と。そんな場合、こちらは無償でやり直します。それがこの業界の常識といいますか、請負とはそういうものなんです。
少しだけ追加請求をお願いする時もありますが、ダライウオッシュは仕上げかなり難しい。その現場は2回塗り替えたのですが、仕上がりがあまりきれいではなくて……。
これまでの話しから、塗壁材にはいろんな種類があることが、お分りいただけたと思います。この会社のオリジナルな工法はうちの職人が発明しました。例えばニコニコしながらよくせんべいを食べている、この道数十年の60代の職人。表面の平坦さと大理石のような重厚感を兼ね備えたポリーブルの工法は、この人が発明しました。
他にも万里の長城の城壁や、法隆寺の築地塀にも用いられている版築(ハンチク)という、城の土台を作る工法がある。その版築を塗壁材の配合を工夫して。塗るだけで版築風の壁を形作る工法を編み出したのも、その職人です。
一方ですごいなと舌をまく30代の職人もいます。松坂屋銀座店の跡地の「GINZA SIX」の工事では、60近い店舗の内装を請負いました。現場の頭になってもらったのがその職人でした。現場監督から各店舗の設計者のイメージを詳しく聞き、いつ何をどこまでやりたいのか。現場監督の意向を把握し、工期に則して日々の左官職人、見習い、タイル職人の人数を決め、僕ら番頭に振ってくる。
途中の設計変更もすべて把握し、僕らに必要なものを指示し、「GINZA SIX」の60店舗近い内装という難しい仕事を完璧に仕上げた。技術のみならず、こういう能力は貴重です。
内装の壁はクロスといって、壁紙を貼る工法が主流です。左官職人を使うと費用はクロスの5倍~20倍以上する場合もあります。でも、左官職人が仕上げる壁はものが違う。
うちでは毎月、120件以上の現場を抱えています。職人の数が足りません。手に職をもつ、古来から継承されてきた左官の技術を取得すれば、AIの時代になっても食うに困ることはないでしょう。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama