入社3年目の本音「左官の仕事は職人が華。番頭は裏方です」原田左官工業所・江口克利さん

2019.02.12

ヘソを曲げた職人から学んだこと。

“年季が明ける”といって、見習いを４年間辛抱すると、うちの会社では一人前の左官職人として認められます。職人が年季明けを迎えると、文京区の会社に近くのホテルの宴会場を使い、盛大なパーティーを開催します。

僕がこの会社に転職を決めた時、職人の年季明けのパーティーに呼ばれまして。出席した職人の前で、「入社します」と宣言したら、「オッー!!」と、歓声があがりました。前々職の現場仕事を通して、原田左官の９割ぐらいの職人と顔見知りだったんです。

だから職人との人間関係も、それなりにできていると思っていたのですが。入社して間がない頃、コンクリートのブロックを積む仕事を職人に頼んだ時のことでした。職人が現場に行くと、墨出しといってブロックを積むのに必要な位置決めのラインを、床に施す処理がなされていなかった。

「約束と違うじゃねえか。これじゃ仕事になんねえよ」職人は仕事に取り掛かってくれない。慌てて現場監督が墨出しの処置をしたのですが、「もう遅い！」とヘソを曲げてしまった。僕も現場に駆けつけなだめたのですが受け付けてくれない。結局、上司に相談して、上司がその職人の携帯に直接電話をして説得してくれて。渋々、職人は仕事に取り掛かってくれたのですが。

職人の中には気難しい人もいる。職人のプライドを傷つけないよう、気をつけなければいけないと襟を正した経験でした。

その意味で、失敗したと感じた苦い思い出は他にもあって。うちの仕事は店舗の内装が多く、施主が契約した設計事務所との打ち合わせがほとんどですが、たまにゼネコンから仕事が入ります。そんな時は仕事の量は多いし、工事に使うこの材料は安全か、工法をどうするか、工期はどれくらいか、仕上がった後の検査は、費用はいくらか等々。打ち合わせも長くなりますし、必要な書類も多くなり準備が大変なんです。

デスクでそんな仕事に没頭している時、たまたま仲のいい職人が話しかけてきた。その時、僕は「皆さんは現場で仕事をやるだけですから、楽ですよね」みたいな言い方をしてしまった。一瞬、微妙な雰囲気が流れて。

ちょっと待て、間違えた……、そんな言い方をしたら、あんたたち職人は楽をしていていいねと聞こえかねない。職人のプライドを傷つけることになってしまう。

「ごめんなさい、なんかオレ、言い過ぎたみたい」と、あわてて謝りました。左官の仕事は職人が華です。僕ら番頭は裏方ですから。