ギリギリのところまで音を入れていた12インチシングル「ボヘミアン・ラプソディ」
さて名曲「ボヘミアン・ラプソディ」は、アルバム『オペラ座の夜』に収録されている。凝りに凝った作品にふさわしく、録音も素晴らしい。録音が最もいいレコードとされるUKマト1(マト1についてはこの記事を参照)の『オペラ座の夜』は、5000円ほどとそれほど高くはない。2015年に名カッティングエンジニア、ボブ・ラディックによるリマスター盤が発売されたが、名匠をもってしてもアナログマスターテープの経年劣化には贖えず、その音はマト1に及びもしない。
ところが同年11月のレコードストア・デイに発売された、このリマスター盤と同じ音源による、45回転12インチシングル「ボヘミアン・ラプソディ」の録音は凄まじい。UKマト1とは別次元の爆音で、驚き圧倒された。なぜ音源が同じなのにかくも音が違うかというと、我がロックとオーディオの師匠・岩田由記夫さんいわく、「掟破りの録音で、リミッターいっぱいいっぱいまで音を入れている」。
かつてのオーディオ少年なら、レコードからカセットテープにダビングする際に、カセットデッキのメーターを注視して、針が赤い領域に入らないようにレベル調整した思い出があるだろう。レッドゾーンまでレベルを上げると、音が割れてしまうからだ。12インチシングル「ボヘミアン・ラプソディ」では、音が割れないギリギリのところまで音を入れているのだ。僕は発売時に2000円くらいで新品を買ったが、eBayやレコード販売サイトDiscogsを見ると、若干ながらほぼ未使用盤が3000円台で売られている(高いセラーだと約10000円)。クイーン・ファンで、録音にもハイレベルを求める人は、即刻購入することをお薦めする。
文/斎藤好一(元DIME編集長)