政治家の発言は高齢者の票を取るため!?
法林氏:野村総合研究所 パートナーの北 俊一さんが「最新のiPhone XRでも、一括0円+キャッシュバックをやっているショップがある。これまでが普通と思ったら大間違い、これまでが異常だったと考えるべき」と言っているそうだけど、じゃあそのiPhone XRを0円+キャッシュバックで売っているお店が、日本にあるすべての販売店の何%かということを言いたいんですよ。それが1店舗でもあるから、だから分離プランにしようという話だったら、残りの販売店にとってものすごく迷惑なわけですよ。
石野氏:連帯責任みたいですよ。
法林氏:だったら、それをやっている店を罰する規定を作る方が先。一連の話は全部そうなんですけど、ごく一部のキャリア、ごく一部の販売店がお手盛りしちゃったとか、解約に応じなかったとか、そういう話の責任を全体で負いなさいみたいな感じになっている。一部のショップが説明責任を果たさないから、契約するときは全部、項目を必ず音読して、すべてにチェックを付けていただくようにしなさいと指導が入っちゃう。それって間違っていますよ。我々のようなスマホに詳しい人に対して、iPhoneを買うときにiOSから何から、いちいち説明はいらないじゃないですか。でも、全部やりなさいという話になったら、1端末契約するのに1週間の研修が必要になっちゃう。本当にバランスが悪い。本当にね、有識者の人たちに、一度僕が説明してあげるって言いたい。全然わかっていない。なんとかしたいですね。
石野氏:そうですねぇ……(官房長官の)菅さんが高齢者世代なのが良くないのかな。打ち出す施策がことごとく高齢者向けというか、若い世代のことをあまり考えていないというか。若い世代は新しいiPhoneが安く買えて、今くらいの料金だったら全然問題ないわけじゃないですか。1GBプランがほしいというのも主に高齢者だし、高齢者に優しいんですよ。
法林氏:1GBプランの話も、じゃあ結局、何%の人が契約したのかという話も出てきていない。
石野氏:それをもっとオープンにするべき。キャリアも悪いところがあって、つけ込まれる隙を与えているというか、1GBプランだけ割引を付けないところもあって、つけ込まれるというか隙がある。他のプランと割引額を揃えても、そのプランを選ぶ人は少ないんだから堂々とやればいい。細かい収益のことを考えて割引額を減らしたりするから、ああいう風につっ込まれる。キャリアもああいうことをやらなきゃいいのに。
一方で、1GBを用意しろとか、使いこなせないからもっと安い機種を売るようにとか、誰のための議論かということも、もっと考える必要がある。スマホを使えなくてフィーチャーフォンを使っていて、でもお金は払いたくないみたいな人たち。サポートに行ってお金を取られるのも腹が立つから無料でやってくれと言う人たちのための議論で、結局、特定の世代の優遇になっている気がします。原因がどこにあるのかといったら、世代の人口比率を考えると高齢者が多くて、政治家は高齢者に向けて優しい発言をしていると票が取れるということで、菅さんのああいう発言に最終的につながっていくんだろうなと思う。この件は政治家の票取りに使われている感じがすごくする。
法林氏:最初からまずいなと思っているけど、業界全体として、誰も総務省に対してノーを言わないことに違和感がある。キャリアしかり、MVNOしかり、メディアしかり。ノーを言う人がすごく少ない。言い方は悪いけど、今回の研究会って、総務省のモバイル研究会の提言じゃなくて、総務省とモバイル研究会によるパワハラでしかない。完全にそうでしょ? 「お上が言ってるんだから、従え」みたいな感じがある。なぜ担当大臣でもない菅さんが、わざわざモバイル業界全体に対して全ユーザーに関わるようなパワハラをしなきゃいけないのか理解できない。ノーを言えないのがやっぱり良くない。
石野氏:それも問題ですよね。メディアも各省庁付きの記者クラブになっちゃっているので。記者クラブの発表を垂れ流しているだけというか。あ、やばい、フリージャーナリストみたいな発言になっちゃってた(笑)。別に記者クラブが悪とは思っていないんですけど、ちょっと国寄りというか官僚寄りというか。
石川氏:メディアも、料金が下がるんじゃないか的な記事にした方が盛り上がるし。
法林氏:大前提として、料金は下げるべきなんですよ、絶対に。これは大前提。技術が進んでいくんだから、ビット単価も下がるので、料金は徐々に下げていくべきだと思うし、キャリアはそれをベースにして、いろんなビジネスを展開するのも全然OKだと思うんだけど、下げていく議論に必要なのは競争。でも、せっかく作ったイー・モバイルという競争環境を、総務省がないがしろにしてしまった。それは誰の責任か。総務省の責任です。その責任を取らないまま、また同じことをやろうとしているのでダメでしょといっている。
菅さんが4割下げると言ったときに、キャリアは下げる努力をしていますと言ったけど、ノーとは絶対言わないんですよ。もっとまずいのは、MVNOがどこも一言も言わないのが最低。だって料金を下げられたら、自分たちの商売が立ちゆかなくなるはずなのに。「その前に接続料を下げてくださいよ」くらいのことを、IIJなりmineoのケイ・オプティコムなりが言えばいいのに、何も言わない。
石川氏:しかも、完全分離とか割引を止めましょうという話は2007年で1回あって、それでKDDIはシンプルコースとフルサポートコース2つのプランを用意したのにも関わらず、受け入れられずに終わっているわけじゃないですか。一度歴史で否定されたのにも関わらず、またそれを持ってくるというのが、なんか総務省の亡霊じゃないですけど、恨みつらみを晴らすためにやっているんだなって。
法林氏:総務省の恨みつらみもそうだし、有識者の人たちが、一度自分たちが言った説をなんとかして証明したい感がある。あなたたちの証明のために、日本のモバイルビジネスを根底から変えちゃうという話になっている。どうして誰もノーと言わないのかが僕は不思議ですね。
……続く!
次回は、ファーウェイについて話合います。ご期待ください。
法林岳之(ほうりん・ たかゆき)
Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。
石川 温(いしかわ・つつむ)
日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ! はじめてのスマホ」で講師役で出演。メルマガ「スマホで業界新聞(月額540円)」を発行中。
石野純也(いしの・じゅんや)
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。
房野麻子(ふさの・あさこ)
出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。