■連載/ゴン川野のPC Audio Lab
Introduction
男子はいくつになっても秘密基地が好きだ。私も幼い頃にサンダーバードの秘密基地のプラモデルに憧れた。そんな秘密基地的な試聴室が杉並区にオープンしたという、これはぜひとも行かなければと思った。作ったのはイスラエルの老舗スピーカーメーカー、モレルの輸入代理店ジャンライン&パートナーズである。モレルはカーオーディオではハイエンドであり、80万円のスピーカーシステムを販売しているという。私はクルマにうといので知らなかったが、有名なメーカーだったのだ。そして、今回、本格的にホーム用スピーカーに参入するという。
早速、「morel杉並ギャラリー」を取材した旨を伝えると、なんと拙宅から徒歩6分の距離にあることが判明。駅までクルマで迎えに来てくれる手筈だったが、駅まで歩くより近いので直接うかがうことにした。住宅街の一角にある普通の一戸建てのインターフォンを鳴らすと、代表の柴野さんが扉を開けてくれた。玄関にはウエルカムボードが用意され、いきなりアットホームな雰囲気に包まれた。
Report
モレルのハイエンドは正統派フロアタイプ
1階の試聴室に置かれているのは『SOPRAN』(230万円ペア)である。ハイエンドスピーカーなのだが、正面から見るとオバQを引き伸ばしたようなフォルムでどこか親しみが感じられる。モレルはドライバーユニットも自社開発&生産という本格派で、使われているのは6インチ(16cm)ドライバーである。バーチカルツイン構成の3Way5スピーカーで、2.8cmのソフトドームツイーターを上下に挟んだミッドレンジ、その下の2個が同じ口径のウーハーである。振動板は高分子ポリマーを採用。エンクロージャーにカーボンとFRPの複合素材を使い、理想の形状を追求。内部の定在波を吸音材なしで抑えると同時にフロントバッフルを湾曲させてタイムアライメントを調整している。確かに正面から見るとフラットだが、側面と背面は優雅なカーブを描き、背面には4つのポートがある。
1階試聴室の主役はトールボーイのフロアタイプ。低域は28Hzまで出せる。
このスピーカーは2013年にCESのデザイン&エンジニアリングイノベーション賞を受賞、そのコンセプトは「form follows function」であるという。つまり、形は機能に従うという正攻法で作られたモデルなのだ。エンクロージャーの影響を排してユニットからの音だけで正確な音像定位と音場感を生み出すという現代ハイエンドスピーカーの王道を歩む設計だ。あえて大口径ウーハーを使わない低域はタイトでスピード感があり、中高域とのつながりも抜群である。左右の音場はスピーカーの内側に展開され、緻密で繊細でありながら、神経質にならない。
SOPRANはハイレゾ音源を聞いても粒立ちを強調しすぎず、女性ボーカルはあくまでもなめらかで清清しい。カーオーディオのメーカーが作ったスピーカーという先入観があったので、もっとメリハリがあって派手な音なのかと思っていたが、予想は見事に裏切られた。SOPRANを駆動しているのはSOULNOTEのプリメインアンプで、それでも低域はローエンドまで伸びていた。これをもっと馬力のあるパワーアンプで鳴らしたら、凄いことになりそうと思わせる可能性が感じられる音だった。スピーカーの左右の間隔もさらに広げて、アンプはセンターではなく手前のリスニングポイントに移動してなど、勝手に想像していると、柴野さんがこの部屋のセッティングは始めたばかりで、今後はシステムも含めてブラッシュアップしたいとのこと。これは楽しみである。
さらに、イスラエルには『FAT LADY』というハイエンドモデルが控えている。エンクロージャーはカーボンとFRPとエポキシ樹脂を使い、さらに専用設計のドライバーの振動板までカーボンを採用した3Way4スピーカー、重さ44kg、高さ127cm。このモデルを導入するかどうかも検討中であるという。
ヨコから見るとモアイ像のように傾斜があり、さらに湾曲していることが分かる。
ツイーターとミッドレンジを近付けるためにフレームの一部を切断している。