■いつ終焉を迎えてもいいよう、品質を改善する
「当時の開発担当者は、『そこまで売れるとは思っていなかった』と言っていました」と明かす依田氏。しかし、予想に反し、発売当初から好調に売れていく。想定を上回る売れ行きだったため、生産能力の拡大に追われた。
だが、いいときは長く続かない。2009年から2011年にかけて、販売数を落とし続ける。当時は、毎年3割ずつ売れ行きが落ちていき、ヒドいときは年間4万個にまで落ちたほど。あまりの状況に、「販売を終了させるつもりだった」と依田氏は言う。
売れ行きが落ちた原因は、低価格の競合品の台頭だった。「競合品が多く出回りました。サイズはほぼ同じで、価格は3分の1程度。一見すると同じながら低価格のため、お客様が流れていきました」と依田氏は言う。
同社もこの状況をただ見ていたわけではなく、コストを大幅に下げる方策を検討する。しかしその一方で、品質改善の検討にも着手。最終的には、コスト改善よりも品質改善を優先し、リニューアルすることにした。
リニューアルすることにしたのは、品質面で大きな問題があったためであった。問題とは、ポリウレタンの生地が汗を吸収し脆化すること。「生地がくたーっとなってしまい、戻らなくなるほど伸び切ってしまいました」と依田氏。この問題は、ユーザーからクレームを受けていたほどだった。
品質上の問題があったとはいえ、低価格の競合品に悩まされた同社が、コスト改善よりも品質改善を優先したのはなぜか。依田氏から語られた真意は、決して前向きなものではなかった。
「いつかはなくなる商品かもしれないけれど、それでも品質だけは改善して終焉を迎える。本当にそう思っていました」
販売終了もやむなしと覚悟した上での品質改善。言い方を換えれば、有終の美を飾るための品質改善であった。
問題となったポリウレタン生地の改善は、糸を供給していた東レにも協力してもらった。ストレッチ性があり脆化しないものとして東レが提案し採用したのが、ポリエステル系の複合繊維。その繊維は水着などに使われるもので、伸びても戻る力が強いのが特徴であった。ただ、このポリエステル系の複合繊維は、染色が難しいのがネック。タテ筋が入ってしまうなどといった問題が発生することから、東レの協力を得て機械を調整しながら問題が起きないようにした。
■「人をダメにするソファ」としてブレーク、海外にも人気が飛び火
リニューアルされた『体にフィットするソファ』は、2011年9月に投入される。ユーザーからは、「へたりにくくなった」という声を多くもらい、品質改善の成果は顕著に表れた。売れ行きに関しては当初、回復させることができなかったが、落ちることもなかったので、販売はしばらく継続されることになった。
状況が突然変わったのは2013年。ネット上で急に、話題になる。ある一般人のブロガーが「人をダメにするソファ」と評し、他のブロガーも追従。やがて、SNSにも飛び火し、テレビでも取り上げられるようになった。
話題が話題を呼んだことから飛ぶように売れ、2014年4月からは生産が追いつかないほど売れていった。生産が追いつかなかった最大の理由は、糸(ポリエステル系の複合繊維)がすぐに用意できないため。つくりたくても手に入らずつくれない状況だった。依田氏は、生産の現状を次のように明かす。
「家具は、生産を発注してから3カ月後に店頭に並びますが、糸は発注から半年以上経たないと入ってきません。今は2016年分まで糸の生産を依頼してありますが、最初は糸を確保するのが困難でした」
また、『体にフィットするソファ』の人気は海外にも飛び火した。中国やシンガポールで人気のほか、アメリカでもこの4月から販売される。2015年は2014年実績の1.8倍に当たる約25万個の販売を国内外で見込んでいるほど。この大きな目標を、依田氏は「達成する自信がある」と言い切る。