◎お金のためだけに働くのではない
稲盛 以前、テレビのインタビュー番組で、宮大工さんが「樹齢1000年の木を使うからには、1000年の月日に耐えるような立派な仕事をしなければならない」とおっしゃっていました。何十年間も一生懸命研鑽を積まれ、鉋一本、鑿1本の技を磨かれてきたのでしょう。その結果、すばらしい境地に達し、誰の胸にも響くような言葉を語られたのです。一生懸命仕事に打ち込めば、仕事は喜びや生きがいを与えてくれ、また人間性を高めてくれる??日本には元々この宮大工さんが体現しているような価値観がありました。
しかし近年のグローバリゼーションの流れの中で、日本人の仕事観は大きく変わってきました。「仕事はできるだけ短い時間で、できるだけ多くを稼ぐほうがいい」という欧米的な仕事観にです。そのような金銭的な動機づけを100%否定するわけではありませんが、それだけでは砂を噛むような人生になってしまいます。仕事とはお金のためだけではなく、「よく生きるため」のものだと私は思います。
だとしたら、仕事は楽しくある必要があります。厳しい社会の中で一生懸命生きていくためには、仕事が苦痛であっては長続きできるはずはないからです。たとえ好きな仕事に就けなくても、せっかく人生の大半を費やす仕事なのですから、仕事を好きになる努力をして、仕事を楽しくしなければならないのです。そうしなければ人生そのものが失敗となってしまいます。
私自身、そう思って81歳の今日までやってきました。厳しい局面、つらい局面もありましたが、それでも不平不満を並べるのではなく、常に明るく前向きに、そして懸命に仕事に取り組んできました。
「人生の大半は仕事──
常に明るく前向きに
好きになる努力をしたら
仕事も楽しくなるのです」