DIME MAGAZINE
◎就職した会社では初任給が遅配された
??では、どうすれば仕事は楽しくなるのでしょうか。
稲盛 仕事を好きになる努力をすることです。好きになる努力とは、今日よりは明日、明日よりは明後日と、次から次へと創意工夫を重ねていくことです。よく、「好きな仕事がしたい、好きな職業に就きたい、だけどそれが手に入らなくて悩んでいる」という人がいますが、好きな仕事というものは簡単に手に入るものではありません。目の前に好きな仕事があるということは、まずありません。だから、今自分に与えられた仕事を好きになる努力をすべきだと私は思うのです。現実は大変厳しいです。つらいかもしれません。でも、好きになろうと努力するんです。自分で考えて創意工夫をするんです。その創意工夫で成果があがれば、人間というのはおもしろいもので楽しくなってきます。そしてその仕事が本当に好きになっていきます。
??言い換えれば、仕事をルーティン化しないということですね。
稲盛 さらに、不平不満を言わずに仕事に打ち込むのです。ブツブツ文句を言っていたら仕事になりません。目の前にある仕事に必死に打ち込むと雑念・妄念を忘れてしまいます。それはあたかも修行僧が行をしているようなものです。仕事に打ち込むことによって、知らず知らずのうちに自分自身の人間性が高まっていくのです。
私自身がそうでした。大学を卒業した時、私は希望の会社に採用してもらうことができませんでした。不況のさなか、恩師に紹介してもらって何とか就職できたのはつぶれかかった会社。入社早々の4月、給料日に給料が出ず、1週間遅配するというような会社でした。また、年がら年中労働組合と会社が対立して、労働争議が絶えませんでした。同期入社5人のうち、4人が1年も経たずに次々に辞めていき、私ひとりだけが取り残されました。どこにも行くあてがなかったので、そこに残らざるをえなかったのです。しかし、就職難の時代であったにせよ給料が給料日に出ないような赤字会社です。私は辞めるべきか残るべきか悩みました。そして決断しました。
「とにかく目の前の仕事に打ち込んでみよう」
私は、与えられたファインセラミックスの研究に没頭しました。もう愚痴をこぼしたり不平不満を言ったりする暇はありません。研究室に泊まり込み、七輪でご飯と味噌汁を自分で作って食べながら、昼夜をたがわずただひたすら研究に没頭しました。厳しい現実社会の憂さを忘れようとするかのように、まさに修行僧のようにがんばったのです。仕事に没頭すると、「会社を辞めたい」という悩みは消え、仕事が楽しくなっていきました。すると、さらに努力をするものですから次第にすばらしい研究成果が表われるようになってきたのです。その成果は会社の業績にもつながっていきました。常に明るく前向きに仕事に打ち込むことで、人生が好転し始めたのです。
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