京セラ、KDDI創業者・稲盛和夫がJAL再生でもっとも心血を注いだ意識改革の真髄を、「仕事がつまらない。先が見えない」と燻っているニッポンの全ビジネスパーソンに直言する!
◎JAL破綻は経営者だけの責任ではない
「常に明るく前向きに。そして、仕事は楽しく」
2010年2月1日、日本航空(以下JAL)の会長に就任した稲盛和夫は、着任早々幹部を集めた席でそう説いたという。その10日ほど前の1月19日、1兆円近くの債務超過状態に陥ったJALは会社更生法を申請し倒産。金融機関などには合計5000億円以上の債権放棄に応じてもらい、さらに企業再生支援機構から3500億円にも上る公的資金注入を受けたにもかかわらず、2次破綻する可能性が高いと見られていた。その渦中での、「仕事は楽しく」である。
2012年9月19日に史上最速で再上場してから1年、「仕事は楽しく」の真意、そして人生、哲学を訊いた。
??経営破綻した企業の社員に対しての「仕事は楽しく」という言葉には、違和感を感じるのですが……。
稲盛 私が経営者としてひとりでいくらがんばっても、できることはしれています。社員全員が本気になってJALをよくしようと思う必要がありました。しかし、私が来た頃のJALは、ほとんどの社員が責任を感じることなく、被害者意識のようなものを持っていました。「会社が倒産したのは経営陣のせいだ」「我々は何も悪いことしていない。経営陣が悪いからつぶれたんだ」というようにです。これではだめだと思いました。
とはいえ、JALはつぶれた会社です。給料は約3割減らされ、ボーナスも出ません。多くの方に、希望退職などで辞めてもらわなければなりません。そんな厳しい環境で社員に一生懸命仕事に打ち込んでもらうためには、常に明るく前向きに、つまり、「仕事は楽しく」ということを繰り返し伝える必要があったのです。
??なぜ仕事は楽しくやらなければいけないのでしょうか。
稲盛 そもそも仕事とは何なのでしょうか。人生を生きていく中で、仕事は非常に大きなポジションを占めます。仕事を一生懸命やって、少し余裕ができたら趣味やレジャーに時間を費やすというのが一般的かもしれませんが、私の考えは違います。生きていくためにはどうしても仕事が大半になる、仕事に一生懸命打ち込んで生きていかなければいけない、そう私は思っています。自然界を見てください。動物にしても植物にしても、必死にならなければ生きていけないというのが掟でしょう。アスファルトの道路に生えている雑草も、春先になると若芽を出して伸びてきます。どんな境遇にあろうとも、みんな必死に生きています。必死で生きていない動植物は全部死に絶えてしまいます。人間も同じで、一生懸命生きるというのが基本だと思うのです。