東急シアターオーブに建設の段階から携わってきた、伊集院正則さんの案内で館内を回った。まず客席から見学。通常、劇場の内装は赤や茶色が使われることが多いが、こちらは宙空の劇場をイメージして、空の青と雲の白を基調としている。
「シアター建設の際は見やすい、聞きやすい、演じやすいを目指した。客席は1~3階合わせて1972席あり、舞台前から1階席の一番奥までは約29m。同じ渋谷にあるオーチャードホールは2150席で39mあるので、それだけステージが近く見やすくなっている。
でこぼこした壁と、バルコニーの上のひさしは、『拡散壁』という仕組み。音はまっすぐしか行かないため、壁が平らだと、音が真っ直ぐ進み、壁にぶつかると1か所からしか返ってこないので基本的にはひとつの音しかないが、拡散壁があると多くの音が様々な方向から返ってくる。この音の響きと明瞭度のバランスを取ることで、定在波を解消。音に厚みが出てくるため、ミュージカルの重要な要素である音楽が聞きやすい設計になっている。劇場のこけら落としは『ウエスト・サイド・ストーリー』を上演したが、ブロードウェイの音響プロデューサーに、アメリカよりよほど音がいいと言われた」(伊集院さん)
ビルの真ん中に位置する劇場だけあって、音漏れにも細心の注意を払っている。舞台の高さは「すのこ」と呼ばれる舞台天井まで24mあり、すのこ部分の2mと合わせて26m、さらに10mプラスされた階上の17階にはオフィスが入っているフロアがある。
「オープン前に舞台にスピーカーを大量に入れて、ロックコンサート以上の音を出してテストを行なったが、17階で床に耳を当てても、まったく音が聞こえなかった」(伊集院さん)
ステージ裏には楽屋やリハーサル室があるが、各フロアの鉄骨と鉄骨の間にゴムを敷設。音だけでなくて振動も伝わらないようにしている。