3.「君のことを思って……」
「君のことを思って、厳しく言っているんだぞ」「君のことが心配だから、この仕事から外す」などと言う上司がいる。部下を自分の思うままに動かしたいのだが、それができないのだ。とはいえ、「バカ野郎!俺の言うことを聞け」とは、なかなか言いにくい。そこで「君のことを思って……」「君のことを心配して……」などと、あたかも「上司として部下のことを考えた上で口にしていること」を強調する。これは「1」?「3」と比べると、部下であるあなたは腹を立てるようなことに思えないかもしれない。だが、この言葉も、上司から部下への脅しのひとつなのだ。たしかに、ソフトな物言いではあるが、上司は暗に「俺に従え!」と言っているのだ。あえて「君のことを思い……」と口にしなくとも、上司は本来、部下のことを思うのは当然のこと。それでも、わざわざ、口にするのは警告にほかならない。「俺がこれほどに言っているのに、なぜ、わからないんだ!」と言いたいのだ。
4.「みんなが……」
「みんなが、君のことをこんな具合に言っている」という言葉。これもよく聞かれる言葉だ。「3」と同じで、たしかにソフトな物言いではある。しかし、上司の脅しである可能性が高い。「みんなが……」は、その部署の多くの社員が同じ意見であるかのように思えるが、実はわずか数人のことでしかないことがある。上司が自分だけの意見なのに、「みんなが」と言っている場合もある。ようは、上司としては、自分の意見や考えに説得力を持たせたいだけなのだ。これは上司の“自信のなさ”の現われ、とも受け取れる。この場合も、部下であるあなたは、「はい」と返事をしておとなしくしていればいい。あえて、このレベル上司と言い争う必要はない。自信がない上司だから、やむを得ないのだ。上司は所詮、上司という役割を演じる会社員でしかない。必要以上に気を遣う相手ではないのだ。
もし、あなたの上司が「1」?「4」までの言葉を発したら、すぐに反論するのではなく、まずは考えてみよう。なぜ、今、こういう言葉を自分に投げかけてきたのか、と。思いを巡らしてみよう。そうすると、何か思い当たることが出てくるはずだ。もしそれが見つかるようなら、できるだけ早く正すようにしよう。
一方で、上司とは、深入りをすることなく、適度な距離感を保ち、目の前の仕事を冷静に消化しよう。脅しの言葉を使う上司は、その後も機会あるごとに同じことを言ってくる可能性が高い。“着かず、離れず”の関係を保つのがベストだ。上司との関係を上手く取り繕うことも、実は大切な能力なのだ。これは、転職したり、独立したり、フリーランスで生きていく時にも、役に立つ知恵でもある。
文/吉田典史
ジャーナリスト。主に経営・社会分野で記事や本を書く。著書に「封印された震災死」(世界文化社)、「震災死」「あの日、負け組社員になった…」(ダイヤモンド社)、「非正社員から正社員になる!」(光文社)、「悶える職場 あなたの職場に潜む「狂気」を抉る」(光文社)など、多数。近著に「会社で落ちこぼれる人の口ぐせ 抜群に出世する人の口ぐせ」(KADOKAWA/中経出版)も好評発売中。