午前9時、ついにハタが上がるが…
午前9時、「左みよしでハタが上がったよ」と船長のアナウンス。正林さんだ。鬼カサゴの回で書いたように、正林さんは僕と釣行すると小林さんになり、小物ばかり釣り上げる。ショウバヤシさんが小物を露払いし、僕が大物を釣るという寸法だ。今回もどんなちびハタを釣ったのかと高をくくっていると(船の右前と左後ろなので、釣った魚どころか正林さんの姿すら見えない位置関係だ)、若船長がやってきて「2kg、いや3kg近くありますよ」と言う。かなりの良型だ。
下船後、この記事用に撮影するも仏頂面の正林さん。本人曰く「このサイズでは物足りない」(上)。「笑わなきゃ駄目」と指導し、撮り直し(下)。
しかし僕は動揺することなく、ほくそ笑んだ。正林さんが3kgなら、自分にはもっと大物が来る。これは歓迎すべき前兆だと。そんなとき、また前アタリが来たが、やはり食い込まない。前アタリが来るのは、前述のように推定ヒラメだ。ヒラメはもちろん高級魚だが、船長が「今日はヒラメさえ、アタリがない」とこぼしたように、ハタ狙いではヒラメといえども格下になってしまう。僕もヒラメより大ハタと、余裕で食い込みなしをやりすごす。
されど、当たらない。だんだん風も強くなり早上がりの可能性も出てきた。ここは釣りに集中するのみ。「僕の方が絶対に正林さんよりいい思いをする」と、ひたすら信じ込む。そんな時、ヒラメ釣りの名人に、ハリは生きイワシの口に刺すより鼻がけがいい、とアドバイスされたことを思い出した。早速実行するが、当たらず。仕掛けを上げると、イワシがかなり弱っている。やはり口の方がいいのかと、弱ったイワシの口にハリを刺し直して投入。するといきなり、グサリと竿が海面に突き刺さる。3.7kgを釣った時の若船長のアドバイス、“とにかくリールを巻き続けて”に従い、容赦なく巻き上げる。しかし残念ながら、獲物は素直に(!?)上がってくる。大物に非ず。若船長がタモ捕りしてくれたハタは1kg級だった。ハリをはずそうとすると、口に刺さっていない。タモ捕りの際にはずれたのだろうが、かなり浅く刺さっていたようで、容赦なく巻き続けて正解だった。
ハタを上げた時刻は午前10時過ぎ、この頃からなにやら釣れる気配を感じていた。それまでと違う、魚が餌を襲いそうな雰囲気が海底から漂ってくる。10時半に小ヒラメを釣る。結局納竿の11時までに釣れたのはこの2匹だけだが、釣れる気配はずっと続いていた。帰りのクルマでこのことを正林さんに話すと、10時以降に3回アタリ(前アタリではない)があり、釣れる予感がしまくっていたそうだ。3回もあたれば1匹くらい釣ってね、とも思うが、それはさておこう。
唯一の僕のハタは弱ったイワシに来た。大ハタは正林さんのことだ、元気なイワシに来たのだろう。大物狙いなら元気なイワシ、サイズより数なら弱ったイワシも有効という仮説も立てられようが、もっと場数を踏まなければなんとも言えない。また正林さん特製三つ叉の効果も検証せねば。どうやら今年の秋冬は、ハタ狙いの釣行が増えそうだ。
大ハタは正林さん行きつけの店、江古田の酒房「みやま」で調理してもらい、刺身と鍋で食べた。どちらもすこぶる美味しいが、残った鍋のスープで作ってくれたコラーゲンたっぷりのおじやの旨いこと旨いこと。釣って、食べて、釣り人、万歳!
文/斎藤好一(元DIME編集長)