関西で教えられた、商売は人対人だと
これまで大きなミスはありませんでしたが、僕は性格的に面倒臭さがりなところがあるといいますか。近畿営業部に勤務した1年目は「報告が遅い、自己管理が甘い」と、上司に言われました。滋賀のスーパーさんの担当だった時は、地元のラジオが、ハーゲンダッツを紹介することになったと電話を受けましたが、誰にも報告をせずにいて。後で上司に「聞いてないんだけど」と、指摘をされたり。
異物混入のクレームがあった時は、スーパーのバイヤーさんへの連絡が遅れて、クレームがお客さんから直接、バイヤーさんの耳に入り「情報が入ったら、すぐに言ってくれなきゃ困るよ」と、注意されたり。
欠品の発生は、ある程度は仕方がない面もあります。例えば新商品の「華もち」はきな粉のアイスに黒蜜と餅が入っていて、アイスと餅のモチモチ感がいい。「華もち」が売れるのは嬉しいのですが、製造計画にかかわる部分はどうにもなりません。原料もうちの製品に合うという理由から、北海道・根釧エリアの乳を使用するとか、厳選されている。基本的に群馬の自社工場のみで製造していますから、生産が間に合わない時があります。
「無いじゃ困るんだ!!」
「でも無いものは無いので、すみません……」
「もういい!!ガチャン」
卸し関係の担当者にそんな感じで電話を切られると、ちょっと気持ちがへこみますね。
でも、近畿営業部勤務で接したバイヤーさんや担当者は、お互いに気持ちの距離感が近いというか。例えば首都圏営業部時代、あるスーパーのバックヤードの出入り口に小さく、「出入り業者の売りの巡回は4時までです」と、張り紙がしてあった。僕がたまたま4時を過ぎて、お店の売り場に行ったら、「帰れ!」と、強い口調で店長に言われたことがありました。
近畿の営業では、そういう理不尽な怒られ方をしたことはなかった。あくまでも僕の感覚ですが、東京は取引先とビジネスライクなお付き合いでした。でも、関西では取引先の担当者と雑談から入って、商談の話し合いを積み重ね、信頼関係を得ていくやり方で。商売は人対人だと、近畿営業部で勤務して実感させられましたね。
それまでの失敗を挽回するためにも、バイヤーさんの懐に飛び込み、お互いの売上げにつながる提案していくしかないと、思っていたんです。
「報告が遅い、自己管理が甘い」と、上司に指摘された井上さんだが、さて挽回につなげるために、どんな提案を思い付いたのか。詳しくは後編で。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama