自分でやりたいことをつかみ取る
プランを立てる時はぼんやりとではなく、自分の中でちゃんと言葉で定義し、それを実証していく。コンサルタント的な仕事に携わり、そのことの重要性を実感したことは、僕にとって大きな経験になりました。
「キャリアの70%は偶然がもたらす。どの部署に行き、どんな製品に携わりたいか、偶然を自分でプランしなさい」上司のそんな言葉も印象に残っています。自分でやりたいことをつかみ取れるような偶然と遭遇するように、きちんと計画を立てなさいと。
「ダイノックフィルムの担当を僕にやらせてください」
前任者が産休を取るタイミングで、自ら手を挙げたのは1年半ほど前でした。うちの事業部の主力製品である内装用化粧フィルムのダイノックフィルムは、3Mの中では珍しく100%国産の製品です。よりグローバルに販路を拡大して行く中で、日本の技術力の高さを世界に向けてアピールしたい。そんな入社した時に抱いていた思いを、実現できる可能性のある製品です。
担当に任命されて時間を費やしたのが、新製品の開発でした。従来の塩ビ製の製品は光沢がありますが、僕が担当になった当時、サンプルができはじめていた新製品のマット。
内装用の化粧フィルムの新製品、マットは光らない、光沢がない質感で、触っても表面に付いた指紋などの汚れが目立ちにくい。うちでは毎年、イタリアでトレンドリサーチを行っていますが、向こうでもマット仕上げは流行の兆しがあると。
「ツヤがないもの」「乾いた感じ」「ツルツルなもの」「淡いもの」数多くの設計者を回り、リサーチをすると、トレンドとしてそんな言葉があぶり出されてきました。例えばカフェやバー、レストラン等で近年、テレビを壁に組み込んだ設計をよく見かけます。テレビは光沢感がある。なので、壁は光らない素材にすることで、奥行きのある空間を演出することができる。そんなケースではマットが打って付けです。
マットの柄はどうするか。今年の見本帳には85種類のマットの柄を発表したのですが、壁に使われる面積が大きければその分、売上げも伸びます。そこで壁に使われやすい黒やグレー、白等の単色の比重を多くして。
「新製品の正式な名前は?」「ドライ、光らない、ツルツル、モコモコ、モフモフ……」「つまりマットシリーズ、これが一番わかりやすい」
発売は6月中旬。ダイノックフィルムの見本帳の前の方に、マットシリーズを紹介して。チームとして、強い提案をすることができました。
マットという言葉、まだご存知ありませんか?今や内装用化粧フィルムの枠を超え、若者に通じるトレンドな言葉になりはじめています。“マット仕上げ”はクールジャパンを象徴する言葉に、なりつつあるんです(笑)
社会人としてのこの5年間を振り返った時、起業を考えていた学生時代より、今は地に足が付いている実感があると応える小野岡さん。
ドライ、光らない、指紋がつきにくい、社会人としてそんな渋い“マットな生き方”を目指しているようにも感じたのだが。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama