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飼育員が語る寿命の短い昆虫を飼育する難しさ

2018.09.05

昆虫の寿命は短くて、繁殖の工夫に思いは馳せる

 昆虫は幼虫の時から脱皮を繰り返しますが、ツダナナフシも半年ぐらいかけて6回脱皮し成虫になります。脱皮した殻は自分で食べてしまうことが多いのですが、飼育をしていると目の前で脱皮するシーンや脱皮の殻を観察できる。

ツダナナフシは身を守るため、湿布のような馴染みのある刺激臭の液体を、胸部の背側から噴射します。ある時、ケース内の脱皮の殻に触れてみると噴射液の臭いがして。
噴射液の入った袋まで、脱ぎ捨てるように脱皮し、何もかも新しいものに替えるんだ……

ツダナナフシの面白さを、生き物の面白さをまた一つ、発見した思いでした。

昆虫には木の枝等に擬態するものが多いのですが、擬態が得意なツダナナフシはふつうのナナフシに比べて横幅が太い。なぜかと言うと、食草のアダンの葉が窪んでいて、そこにピッタリとはまり、隠れることができるような形になっている。飼育・展示していると目の前でそんな擬態も観察できます。

飼育員は誰もが、自分が担当している動物に思い入れがあります。私も飼育している南西諸島の12種の昆虫や、爬虫類や両生類が可愛い。みんな顔つきが違います。目が丸かったり細長かったり、かなり主観的ではありますが、たまに目があったりすると、あっ、お腹が空いてるんじゃないかなとか、感じることがあります。

だからといって、死んだ昆虫に感傷的になっている余裕はありません。昆虫の寿命は短くて、早いものは数ヶ月で代替わりをしますから、繁殖をコンスタントに維持していかなければならない。それも飼育員の仕事です。

例えば繁殖が難しいクロカタゾウムシは、その名の通り長く伸びた口の部分が、ゾウの鼻のように見える、ひょうたんみたいな形をした体長1.5cmほどの甲虫です。これは飛べない代わりに世界一硬い虫と言われていて。ステンレスの針が刺さらず、標本にする時はテープで止める。あまりの硬さに鳥が食べない、それで身を守っていると言われています。

クロカタゾウムシは、マテバシイやクヌギのドングリの中に幼虫を産みつけます。そこで私たちがドングリに切れ目を入れ、卵を産み付けやすくしてあげる。乾燥しすぎないよう飼育のケースの中に霧吹きをかけて。

クロカタゾウムシの幼虫のエサになるドングリは、秋しか入手できませんし、長期保存が難しい。そこで代用品となるエサをいくつか試しています。サツマイモに5mmほどの穴を開けて卵を入れてみましたが、孵化した幼虫がサツマイモを食べてうまくいく時と、そうでない時があって。今は人工飼料を試していますが、より安定したクロカタゾウムシの繁殖方法を確立するのは難しい。

多摩動物公園では、小笠原諸島のチョウの保全活動に取り組んでいまして。オガサワラシジミという絶滅危惧種の保全に力を入れています。

南西諸島のいきものの他に、私はオガサワラシジミの担当もしています。05年から多摩動物公園ではじまった、この絶滅危惧種のチョウの飼育は、コンスタントに繁殖する方法が確立されていませんでした。オガサワラシジミが常態的に交尾をするにはどうすればいいのか、それが課題だったのです。

「飼うこと自体、うまくいくと楽しい」と言う古川飼育員。「大型動物の飼育に比べれば体を使う労働は少ないけれど」飼育と繁殖を大きなテーマに、図鑑や文献やこれまでの飼育記録に目を通して。習性の異なるそれぞれのいきものの展示ケースは、一つの小世界のようにも思えてくる。

古川さんは、オガサワラシジミの小世界をジッと観察し、やがて課題たった安定した繁殖方法を確立していくのだが、その物語は後編で。

取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama

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