現在、CS放送のナショナル・ジオグラフィックで『ジーニアス』という番組が放映されている。
これは、世界の偉人を題材にした伝記ドラマだ。その第2弾はアントニオ・バンデラス主演のパブロ・ピカソである。
そのピカソが愛用していたナイフをご存知だろうか? 『オピネル』というフランスの企業が製造しているものであるが、それが今回の記事の主役である。
「包丁未満のナイフ」のススメ
現代人がナイフを持たなくなってから久しい。
それは「ナイフを持ち歩く」という意味ではなく、「家にナイフを常備しておく」という意味合いだ。とあるナイフメーカーの重役から、「今の日本人は包丁すらあまり握らなくなった」という話を聞いたことがある。
それが包丁ではない他の種類のナイフだったら尚更だ。しかし一方で、日本は自然災害が頻発する国である。もし非常袋の中にナイフが1本あったら、避難所でも必ず使う機会が発生する。
災害時だけではない。日常の場面でも包丁以外のナイフは案外生きる。包丁ではそれを切るには大き過ぎる、という場面だ。小さな果物、魚の切り身、野菜、チーズ。先日、筆者はクラウドファンディングに出展されたチタン製ナイフに関する記事を配信したが、その中で日欧EPAとヨーロッパ産チーズに関する言及をした。ヨーロッパではチーズは自分の手で切るものである。そのためのナイフは欠かせない。
いや、チーズだけではない。ヨーロッパはサラミやスモークなど、長期保存を可能にした食肉が広く浸透している。それに合わせた小さなナイフが頻繁に利用されているのは、むしろ当然と言える。
そこで、オピネルのナイフという選択肢が発生する。
しかし、なぜオピネルなのか? その理由を5つ、以下に挙げたい。
1:不動の実績
オピネルの創業者であるジョセフ・オピネルが今につながるナイフの原型を設計したのが、1890年の話。日本では和歌山県串本沖でオスマン帝国の艦船エルトゥールル号が遭難する事件が発生している。
この当時のジョセフ・オピネルは、何とティーンエイジャーだった。彼はサヴォイアの鍛冶職人で、今で言うスタートアップを大成させたのだ。現代の若者も見習うべき人物である。
ちなみにサヴォイアとはイタリア統一を果たしたサヴォイア家の故郷。現代のオピネルナイフのグリップにも「SAVOIE-FRANCE」と書かれている。
製品の基本構造は、この頃からさほど大きくは変わっていない。
2:種類が豊富
オピネルのクラシックタイプである『アウトドア』は、その種類が非常に豊富だ。
グリップの素材やブレードの形状についての差異は、とりあえずここでは避けたい。それよりも注目すべきはサイズだ。#2から#13までの計11バージョンが用意されている。その中の#11と、最も小型の#1は現在製造されていない。
#2のブレード長は34mmで、これはキーチェーンが付属されている場合が多い。一方、#13のそれは229mm。これはもはや鉈に近いサイズだ。
3:軽い
オピネルの特徴、それは「軽い」という点だ。
たとえば、ブレード長90mmの#9の重量は約65g。実際に持ってみると、特にグリップ部がまるで羽根のようにも感じる。折り畳みナイフの中には、グリップの作りや素材に凝り過ぎてやたらと重いものも見受けられるが、ブナ材使用のオピネルはとにかく軽くて使いやすい。
女性にとっても重宝できるほどだが、アウトドアに慣れた野性的な男にとっても「軽いナイフ」というのは実にありがたい。グリップの重いナイフは、使っているうちに手首が疲れてくるからだ。
4:構造が単純
オピネルの構造は極めて単純。それが最もよく窺えるのは、ブレードロックである。
折り畳みナイフだから、引き出したブレードは固定しなければならない。オピネルのロック機構はリング状で、固定の際はこれを回す。
ロック機構のためだけに、グリップ内に様々な部品を組み込んでいるというものではない。部品点数が少ないということは、それだけ故障しにくくなるということでもある。
5:安い
このナイフは、決して高級品ではない。
ステンレスの#6の定価は税別2400円。それよりも大きい#10は3500円だ。しかしだからといって、100円ショップで売られているような包丁のレベルではない。オピネルの最終仕上げは職人がその手で行っている。
ディスカウントショップやネット販売などでは、上記よりもさらに安く売られていることがよくある。消耗などを気にせずガンガン使い、必要に応じて買い直す。そういうことができるナイフなのだ。