■あなたの知らない若手社員のホンネ~株式会社ニットー/鈴木悠太さん(28才、入社4年目)~
■前編はこちら
中間管理職が知っておくべき若手社員のモチベーション。今回は従業員が50名ほどの町工場のプレス板金加工職人である。入社3~5年目の若手を中心に、仕事についての率直な思いに耳を傾けたこの企画。異業種で汗を流す20代に、同世代の読者も興味を抱くところだろう。
シリーズ32回目、株式会社ニットー プレス板金事業部 製造課係長 鈴木悠太さん(28才)入社4年目。ニットーはプレス金型製作、プレス板金加工、機械部品加工、製品開発、試作、量産製品等手がける会社だ。事務所を兼ねた工場は、横浜市金沢区の工業団地の一角にある。
大きな体の鈴木さん、工業高校時代は柔道選手だったが、ケンカは子供の頃からしたことがないそうだ。3回の転職を経て、結婚を機に生活の安定を求めこの会社へ。板金職人として工作機械の操作には自信があったが、この会社の父親ほどの世代の職人の技術に、“まだまだ見習い中”を自覚。とは言っても、「彼はコミュニケーション力がある。実は鈴木くんは若いけど、うちの会社の職人たちのまとめ役です」と、同席した藤澤秀行社長は言う。
熟練した職人の凄腕とは?なぜまとめ役が必要なのか。年少者の彼が、まとめ役を引き受けている理由とは――。
「ダメだ、そんなんじゃ」
板金機械加工だけで20人ぐらい担当者がいます。僕の主な仕事はタレットパンチプレスという、金型がたくさんホルダーに配されたNC制御の工作機械を使います。加工したい形をプログラミングし、鉄やアルミやステンレスの板をセットして、いろんな形状に型抜きをする。
例えば試作品が段ボール箱のような形をしていたら、試作品を広げたような平面図をプログラミングします。この形に型抜きするにはどんな金型が最良か、コンピュータが金型を選んで金属の板を加工する。型抜きした金属を機械で折り曲げると、試作品と同じ段ボール箱の形に仕上がるわけです。父親世代の先輩たちは試作品を見ただけで、おおよその展開図が頭の中で描けます。機械のプログラミングに時間が掛からない。
「金属は曲げると必ず伸びるから、それを計算に入れておけよ」とは、仕事をはじめた当時、先輩によく言われたことです。応力といって金属等を曲げると内部に生じる抵抗力で、想定した寸法よりも金属が伸びてしまう。その伸び方は鉄、ステンレス等材料によって違いますし、板厚によっても違ってきます。
うちは自動車や家具、家電、医療機器等、1000種類ぐらい扱いますから、それぞれ素材も板厚も違ってくる。僕が扱うのは主にスチール(鉄)で、厚みが何㎜なら伸び率はいくらと応力に関する表があって、それを見ながら加工します。でも父親世代のベテラン職人は応力のパターンが頭に入っている。電卓でパパッと計算してすぐに作業に掛かります。
この前引退しましたが、70代の大先輩はシャーリングという機械で、天板を切断する作業を受け持っていました。時には“突っ込み仕事”といって、取り掛かっている仕事の合間に、別の仕事を割り込ませることもあります。
「急ぎの仕事なんで、材料を切ってください。お願いします」「わかった」と、時間を告げられる。「その頃取りに来い、次の段取りを準備しておけ」と。指定された時間に行くと完璧に仕上がっている。70才を過ぎた大先輩は動きに無駄がない、仕事の切り替えが早い。一つの仕事をしながら、常に次の仕事のことを考えて作業をこなしていました。
「お前、ひと手間多いよ」そう先輩から声をかけられたのは、1000枚の鉄板一つ一つにプレス機で、3つの穴を開ける作業をしている時でした。「そんなやり方じゃ面倒くせえぞ。ダメだ、そんなんじゃ」と、寸法を取る“当て”を作り、ひとつの工程で2箇所、プレス機で穴を開け早く仕事をこなす方法を教えてもらいました。
うちは複雑で面倒な加工や、納期が差し迫ったもの、逆に単純すぎる仕事とか。他社がやりたがらない仕事を積極的に引き受けているので。技術力の他に、段取りの良さも兼ね備えていないとやっていけません。