軽バンで後席に人が乗ることなどめったにないと思うが、N VANの場合、一般ユーザーがホビーユースに使うのに適したロールーフの+STYLE COOLというグレードがあるのだが、ライバルと比較してひざ回り空間はギリギリ。身長172cmのぼくの運転姿勢の背後で数cmという具合。ライバルは200mm程度あるのに、である。いずれにしても軽バンの後席は格納前提でスライドもリクライニングもせず、かけ心地が板のようなのは共通。N VANの足元が窮屈なのは、FFレイアウトによる室内長の短さに加え、フロアからシート座面までの高さ=ヒール段差があるためで、ライバルはシート座面が低く、体育座り的になるところを、適切ないす感覚の高さを確保したからである。シート座面が高くなれば(ひざの位置が高くなるほど)、ひざ頭が当たるところは前席シートバックが斜めに倒れているゆえ、スペースが縮まる理屈だ。
しかしながら、軽バン本来の使い勝手としては1名乗車が基本。後席、助手席をダイブダウン格納して使う前提では、荷室後端から前席背後までの荷室長でこそキャブオーバー車に劣るものの、実質的使い勝手ではフロアの低さ、天井の高さ、助手席部分までフラットな荷室にできるダイブダウン格納のアイデア、バックドア&センターピラーレスの大開口スライドドアの両方から同時にも荷物を出し入れできる便利さを含め、軽バンに新たな価値をもたらしたことは疑いなき事実。バイクを無理なく積める超積載性は“ワンボックスカーいらず”にもなりうる才能だ。
軽バンで働く人、ホビーユーザーにとって、これは革命ではないか。本気で働くためのG、Lグレードに加え、ホビーユーザーにもぴったりのスタイリッシュな+STYLE FUN、ロールーフの+STYLE COOL、NA、ターボエンジン、FF、4WDの用意はもちろん、CVTに加えS660譲りの6MTをそろえているところも、なつかしいホンダ・クリエィティブムーバーを想起させる商品力の一端だと思える。
なお、N VANの荷物積載時を含む走行性能、N BOXに準じた先進安全支援機能=ホンダセンシング全グレード標準装備の充実度などについては、別稿にて紹介させていただきたい。
ホンダ N VAN
https://www.honda.co.jp/N-VAN/
文/青山尚暉
モータージャーナリスト。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。自動車専門誌の編集を経て、現在、モータージャーナリスト、愛犬との快適安心なカーライフを提案するドッグライフプロデューサーのふたつの肩書を持つ。小学館PETomorrowでも「わんこと行くクルマ旅」を連載中。最新刊に「愛犬と乗るクルマ」がある。