■連載/あるあるビジネス処方箋
この原稿を書く数日前、フリーランスの編集者からメールを受け取った。6月末で廃業し、編集プロダクションの正社員になるという。この編集者は24歳で小さな出版社を退職し、フリーの編集者になった。会社員の経験はわずか2年。その後、5年間、フリーだった。本人から聞く限りでは、年収は200~250万円だったようだ。今後の生活のめどが立たないこともあり、編集プロダクションの正社員になるのだそうだ。
こういう人は、私がフリーになったこの13年で通算50人以上はいる。5年以内で廃業する人の多くは、会社員の経験が浅いことである。特に5年以内で会社を辞めて、フリーランスになっている。今回は、なぜ、会社員の経験が浅いと、フリーランスとして行き詰まるのかを考えてみたい、
1、仕事の型をマスターしていない
通常、ほとんどの仕事にはある程度の「型」がある。たとえば、TPOをわきまえて報告・連絡・相談することは「型」であるし、優先順位を踏まえたうえで素早く作業をすることも「型」といえる。大多数の会社員は、これらの「型」を反復することでマスターする。会社員の経験が浅いまま、フリーランスになると「型」を心得えないうちに「個人事業主」として仕事をすることになる。
発注者やクライアントからは「プロ」と見られる。ところが、仕事を依頼すると、「報告が遅い」「相談をすることなく、進める」などと不満や怒りを感じる。それで「切る」(契約を解除すること)ことになる。
仕事をするうえでのスキルや技術も必要であるが、その前段階としての「型」をマスターしていないと、なかなか信用されない。まして、発注者はその仕事の専門家ではない。したがって、スキルや技術を判断する以前に、常識的な「型」を心得えているか否かで判断する傾向が強い。その意味でも、仕事の「型」は実に大切なのだ。
2、会社のからくりを心得ていない
会社員の経験が浅いうちにフリーランスになると、会社や部署のからくりを見抜いたうえで仕事をすることがあまりできない。たとえば、担当者(非管理職)とトラブルを起こすと、その上にいる管理職はおもしろくない。自分が否定されたと思うものだ。
そのフリーランスに相当に実績があり、特殊なスキルを持ち、今後も発注し続ける意味があるならばともかく、そこまでの人は数パーセント以下のはずだ。
管理職からすると、「お前の手に負えないようなタイプならば切っちゃえよ」などと担当者に言っている可能性がある。これも、会社のからくりといえよう。
言い換えると、フリーランスの大半は「下請け」的な扱いを受ける。そこを抜け出し、発注者と対等の関係になる人は全体の数パーセント以下である。「クラウド」などが浸透した今も、この位置づけは変わらない。
今後は、「下請け」的なフリーランスが増える。市場が飽和すれば、差別化を図るのは一層難しくなる。フリーランスの扱いは相対的に低くなる。まして、フリーランスの数が増えれば、一段と低く扱われる。私の周りでは、慢性的に収入が不安定となり、特に30代前半~半ばで家族を養う立場となる男性が廃業し、会社員に戻るケースが増えている。