どうして、こういうことが起きるのか。この会社が人材難であり、人材の質が相対的に低いからだ。特に中堅企業(正社員数500~1000人以下)や中小(正社員数300人以下)やブランド力の弱いベンチャー企業で目立つ。採用力がもともと低いために、大企業のように毎年、優秀な人材を獲得できない。定着率は、大企業に比べて概して低い。結果として素行や言動に少々問題があったとしても、同世代の中で多少、仕事ができるイメージがあると、30代で管理職に昇格することが多い。
しかも、大企業のような大規模な人事異動がなく、大量の人員整理をするリストラもほとんどない。職場は得てして、まったりとよどんだ雰囲気となりがちだ。こういう空間では、人のことなどお構いなしに、自分の論理をごり押しする人のほうが結果として認められる場合がある。
ここまでを読むと、良識ある読者諸氏は幻滅を感じるかもしれない。このタイプの社員に苦しめられている人は憂うつになるかもしれない。だが、心配はいらない。このタイプの社員には必ず、誰かが攻撃をする。何らかの形で排除するものだ。大企業のような大胆な追い出しやリストラはないだろうが、見えないところで誰かが動き、排除していく。
私がこのタイプの社員の上司である役員と話をしていると、実はトラブルメーカーであることを把握しているのだ。人材難であるから、やむを得ず、今だけ認めているに過ぎない。言い換えると、役員である自分たちに反抗的な態度をとれば、つぶしにかかると言わんばかりだ。そのことを本人が察することができずに、本当に認められていると信じ込んでいるに過ぎない。
良識ある読者諸氏が、このタイプの社員に怒りを覚えても、深く関わるべきではない。あなたが報復をしなくとも、必ず、誰かがする。どこかのタイミングで本人が墓穴を掘る。ビジネスでは相手を怒らせたり、不愉快にさせると何らかのしっぺ返しがくる。一方でいい印象を与えると、それにふさわしいものを得ることができる。ブーメランの原則が貫徹されている世界なのだ。
今回は、このタイプの社員の横着な素行や言動に振り回され、損をしている社員が私のそばにいるから、助言をするつもりで書いてみた。読者諸氏の職場にも、衝突や対立を繰り返している人がいないだろうか。反面教師としてそっと観察してみると、見えるものがあるはずだ。
文/吉田典史
■連載/あるあるビジネス処方箋