■小型化の一環だったリチウムイオン充電池の採用
2018年2月に発売された〈PT-P710BT〉は、店舗などでの需要も見込み、パソコンでの編集・印刷にも対応するようにした。
開発ではサイズを意識した。店舗などでも使ってもらえるよう、幅24mmまでのテープに対応することにしたが、テープカートリッジだけでなく印刷機構も大きくなってしまうため、普通につくると大きさが〈PT-P300BT〉の倍以上になってしまい、置いていても美しく見えないからだ。そのため、カッター機構を小型化することにした。仕組み自体は従来と変更はないが、小型化可能なところを小型化したり、配置を工夫することで小型化を実現した。
また、〈PT-P300BT〉は単4アルカリ乾電池または単4ニッケル水素充電池6本とACアダプターで動くが、〈PT-P710BT〉は小型化するためにリチウムイオン充電池を採用した。乾電池の交換は面倒、ACアダプターは取り回しが悪くなるといった理由から、もともとUSB接続で充電できる充電池がユーザーから要望されていたが、〈PT-P710BT〉の開発に当たり、小型化の一環で採用に至った。
アプリも強化された。それまでは「整理収納」「書類整理」「ネーミング」「ギフト・ラッピング」の4つだったがカテゴリーが、〈PT-P710BT〉専用のカテゴリーとして「ショップラベル」「シェアラベル」を追加した。
シェアラベルとは聞き慣れないが、これはQRコードが印刷されたラベルのこと。取扱説明書のURLをひも付けたQRコードを印刷したラベルを家電製品に貼り、取扱説明書を読みたくなったときにQRコードを読み取って読む、といったような使い方ができる。QRコードにはオリジナルの動画や画像を簡単にひも付けることもできるので、大勢の人と手軽に情報をシェアすることが可能だ。
■ユーザーがSNSで活用例を拡散
『P-TOUCH CUBE』シリーズは、専用アプリで紹介している作例が充実している。作例を見て、「つくってみたい」と思った人が購入し、評判がSNSを中心に拡散しているのが特徴的だ。
中でもInstagramは、ハッシュタグ「#ピータッチキューブ」で検索すると、作成したラベルを貼って整理収納しつつインスタ映えも意識した画像が多く投稿されている。「以前から整理収納を趣味にし、家の中をキチンとすることで心地いい暮らしにつなげる人がいましたが、そこにインスタ映えの流行が加わったことが、Instagramへの投稿につながったと思います」と伊藤さんは分析する。
★★★取材からわかった『P-TOUCH CUBE』シリーズのヒット要因3★★★
1.デザイン性の高い本体
ラベルライターは従来、使い終わったらしまわれることが多かった。しかし、キーボードと液晶画面をなくし、出しっ放しにしても周囲になじむ違和感のないデザインに変更。このデザイン性の高さが評価された。
2.使いやすい
多くの人が扱いに慣れているスマートフォンと専用アプリを使って操作。ラベルライターにつきもののキーボードと液晶画面をなくしても、ユーザビリティーは落ちなかった。
3.インスタ映えの流行に乗った
作例を真似てつくったラベルを貼り整理収納した画像がInstagramに多く投稿されている。インスタ映えの流行に乗り、販売を後押しすることになった。
あるのが当たり前のものをなくすという決断は本来、相当の勇気がないとできない。失敗したときの責任問題に発展するからだ。『P-TOUCH CUBE』シリーズの実現は、ラベルライターにあるはずのキーボードと液晶画面をなくしてもうまくいった。その要因は様々あるが、常識だと思っていることを疑ってみることは、ときには必要なことかもしれない。
製品情報
http://www.brother.co.jp/product/labelwriter/special/cube/index.aspx
文/大沢裕司
ものづくりに関することを中心に、割と幅広く色々なことを取材するライター。主な取材テーマは商品開発、技術開発、生産、工場、など。当連載のネタ探しに日々奔走中。近著に「バカ売れ法則大全」(共著、SBクリエイティブ)。
■連載/ヒット商品開発秘話