■数字だけを見てはいけない
数字はモノを言いますが、数字を作る前段階の経験や知識や情報が、より大切だということも、徐々にわかってきました。例えば野菜ジュースの購買減少の理由を分析する案件の時のことです。野菜ジュースを売上げが減少し、どこか別のカテゴリーが伸びていたら、伸びた方に消費者が移ったに決まっていると。そのカテゴリーがわかれば、減少を食い止める施策も打てるに違いない。そこでヨーグルト、牛乳、コーヒー等々、手当たり次第にデータを調べ、直近で伸びているカテゴリーをあぶり出していったんです。
集計データを見ると、どうやらコーヒー牛乳が伸びている。野菜ジュースの購入者はコーヒー牛乳に流れていると、仮説を立てることができる。
「浜田さん、それって本気?」
この仮説を言葉にすると、お客様に不思議そうな顔をされました。冷静に考えれば野菜ジュースを買う人は、コーヒー牛乳を買うわけがない。野菜ジュースとコーヒー牛乳を比べても意味がないんです。
野菜ジュースは健康志向の高い人が買うモノで、例えばヨーグルトや豆乳、トマトジュース、野菜ジュースでも果物が入っていない野菜だけのモノとか。健康系のカテゴリーを細かく見てデータを集計し、分析をしなければ売上げが減少した原因も、それに対する施策も立てられません。
その方向で集計データを設計し、クライアントが望むような報告書を提出したのですが。そもそも野菜ジュースとは何かという、根本的な知識が欠如していたんです。もう一つ、データの集計だけに目が行くと、野菜ジュースとコーヒー牛乳を、一緒のカテゴリーにしてしまうような、常識ではありえない判断をしてしまう恐れがあると。我が身に言い聞かせましたね。
「野菜ジュースを買っている人が、どういうカテゴリーをよく買うのか。広い視野でデータを見れば、細かい分析がもっとクライアントの施策に、繋がるものになったかもしれないね」と、言葉をかけてもらったのは、トレーナー役とは別の先輩でした。
今は社内でエクセルやパワーポイントの講師を務め、チームリーダーとして後輩に教える立場にいます。後輩には自分で気づいてもらいたいのですが、僕の時のトレーナー役の先輩のように「マニュアルを読んでもわからないなら、自分で考えろよ」みたいな言い方はしたくない。
「なんでこのデータが必要だと思う?」「特徴を見ることができるデータはどうしたら作れると思う?」「この商品の特徴がわかるとそこから何がわかって、どんな仮説が立てられる?」「その仮説は何に役立たせることができる?」「それらを元に、この商品の売り上げを伸ばすためには、どんな施策を打てばいい?」そんな感じで、後輩に答えを引き出す質問を考えます。
うちの会社は転職する人も多いのですが、調査業界から移る場合、メーカーのマーケティングの部署に転職というケースが目立ちます。すると、転職した先の会社から案件の依頼を受注できて、うちとしても嬉しい。
僕も転職を考えないこともないですよ。実は教師になる目標は今も抱いています。将来的に教師になった暁には、生徒に的確なアンケートをして、それを集計しデータを集め、生徒たちに今何が足りないのか、確実に把握をしますね。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama