小学館IDをお持ちの方はこちらから
ログイン
初めてご利用の方
小学館IDにご登録いただくと限定イベントへの参加や読者プレゼントにお申し込み頂くことができます。また、定期にメールマガジンでお気に入りジャンルの最新情報をお届け致します。
新規登録
人気のタグ
おすすめのサイト
企業ニュース

ゾウの飼育員と象使いの根本的な違い

2018.04.20

■ゾウの前ではベテランのつもりで

 国内のアジアゾウでは最高齢のオスのアヌーラは普段、おとなしく温厚なゾウなので、比較的思い通りにこちらいうことを聞いてくれます。若いオスゾウのヴィドゥラは食いしん坊なので、エサがあればトレーニングはやりやすい。問題はメスのアマラ。アマラは気持ちにムラがあって、エサにあまり執着がない。気が乗らない時は、トレーニングに集中してくれません。特に後ろ足を窓に乗せさせようとする時、アマラを正しい位置に持っていくのが難しい。これでいいのか、僕の中で迷いが生じてしまう。

「人の気持ちがゾウには伝わる。お前が迷ってオドオドしていたら、ゾウは何をしていいのかわからなくなるだろう」と、班長には常に言われています。

 人が動いてゾウがついていく。アマラが僕に注目してくれるためには、どうしたらいいのか。エサにあまり執着がないので、エサに重きをおくのはやめよう。アマラに対する時はあらかじめ手順を全部決めて、頭に叩き込んでおく。使うエサも事前に決めて用意をしておく。作業を始める前にアマラの目をしっかり見て、「アマラ、こっちだよ」と、僕の意思を伝えて。すべてにおいて躊躇なくテンポよくパパッと動く。

「ゾウの前ではベテランのつもりでいろ。俺は経験があって、お前のことは全部わかっている。お前がどうやるかもわかっているよと、そのぐらいの雰囲気を出さないとダメだ」これも、班長のアドバイスです。

 ゾウの飼育を担当して6年目、アマラもだいぶ僕の言う通りにやってくれますが、雨の日は部屋の扉を開いても外に出たがらない。運動場に出さないと部屋の掃除ができません。そんな時は6枚切りの食パンを一枚、アマラの見えるところに投げてやる。すると渋々、部屋から出てきます。エサは多く使えばいいというものでもなくて、ゾウの気持ちを乗せるように工夫する、それも飼育員の仕事です。

■ゾウにも不機嫌な時期がある

 また、アジアゾウのオスには「ムスト」と呼ばれる荒れる時期があります。オスのヴィドゥラは若いので、本格的なムストはまだ見られませんが、アヌーラには2月と9月の年に2回、1ヶ月ほど続きます。ムストの時期のアヌーラは人に例えれば人相が悪くなって、何を考えているのかわからないような時もあります。

 こめかみに分泌液が出る穴があって、そこからジンギスカンを食べる時にプンとする、あの臭いに似たような動物特有の臭いを放します。野生ではムストが来ると他のゾウが敬遠するので、繁殖に有利だと言われていますが、なぜムストの時期があるのか、詳しいことはわかっていません。

「ゾウがムストの時は関わり方を変える。ムストで興奮状態の時に、たまたまお前が声をかけたら、冷静になった時も『こいつがいるだけでイライラする』と、悪いイメージを持たれてしまうかもしれない。ゾウにそう思われるような機会を作るな、ヘンに関わるな」これも班長に言われたことです。ですからアヌーラがムストの時は朝、ゾウ舎で「おはよう」と声をかけることも控えます。足のケアもゾウの状態を見て、簡単なメニューする時もあります。

 ムストの時期は部屋の壁にガンガンぶつかってきたり、柵の間から鼻を伸ばしてきたり。落ち着いて対応しますが、鼻で叩かれたり鼻でつかまれたら、命に関わるケガにつながります。それはムストの時期だけに限りません。

 普段、温厚でおとなしいアヌーラも、面白がってちょっかいを出してくる時があります。常にゾウの動きに気を配っているつもりでも、ふっと柵の間から鼻をヌーと伸ばしてきて、ちょっと驚く時もある。そんな時は「お前の油断だよ」と、班長に声をかけられます。ゾウは人の感情をよく見ている。そしてこちらが油断した時、“今だ”とちょっかいをだしてきます。それが事故につながる。そういう動物だと、常に頭に入れておかなくてはダメだと。

 僕から見るとアジアゾウとアフリカゾウは、全く違う生き物ですね。アフリカゾウはアジアゾウよりも体が大きくて、立派な牙もあって、見た目にゴツゴツしていて恐竜のようじゃないですか。その点、アジアゾウは丸っこくって可愛らしい(笑)。

 最初の赴任先の上野動物園では、モルモットやウサギやふれあい動物の飼育を担当しましたが、ゾウはいざという時に捕まえたりはできませんし、モルモットとはまったく違います。でも、こちらの行動一つでゾウの態度が変わってくる。ゾウの気持ちをいろいろと考え、トレーニングをすると、人に媚びない、見上げるようなゾウが、自分の思い通りに動いてくれる時があります。その瞬間は野生動物と気持ちが通じ合えたなと実感が持てる。ゾウは可愛いですよ。

取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama

@DIMEのSNSアカウントをフォローしよう!

DIME最新号

最新号
2024年3月15日(金) 発売

DIME最新号はデザイン一新!大特集は「東京ディズニーリゾート&USJテーマパークの裏側」

人気のタグ

おすすめのサイト

ページトップへ

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標(登録番号 第6091713号)です。詳しくは[ABJマーク]または[電子出版制作・流通協議会]で検索してください。