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現在に息づく「幸之助イズム」全社員が毎朝唱和する遵奉すべきパナソニックの精神

2018.05.05

 続いて2006年に社長に就任した大坪文雄氏は、就任時に「私にできないことは多いが、『衆知を集める』ことで克服したい」と幸之助の言葉を織り込んだ。ひとりだけの知恵では限界があり、だからこそ衆知、すなわち多くの人の知恵や意見を集めて全員経営を実践するために、幸之助自身も常に「あんた、どない思う?」と人の意見を求めてきた。

 大坪氏は世界に打って出るために、2008年に松下の名を捨てて、現在のパナソニックへと社名変更した。その発表の際にも「衆知を集めた全員経営」を掲げており、幸之助の意志をしっかりと受け継いでいたのである。

◎津賀社長が常々口にする幸之助イズムの神髄

 そして「幸之助イズム」は、2012年に社長に就任した津賀一宏氏にも継承されている。

 中でも津賀氏が念頭に置いている幸之助の名言が「常に一商人の心を忘れず」だという。その意識をより強めた背景には、ある印象的な出来事があった。

 社長就任から1年ほどたったある日、津賀氏が販売店を訪問した際、「最近、パナソニックの社員はサラリーマンになっているのではないか。我々は商人だ」と指摘を受けたことがあった。そこでさっそく社内に持ち帰り、「一商人とは何か」について討議する機会を持った。

 行き着いたのは、松下電器産業として株式会社化した1935年に幸之助が制定した「基本内規」だった。会社の規模拡大が招く社員の慢心を戒めるために定められた次のような表現である。

〈松下電器が将来いかに大をなすとも常に一商人なりとの観念を忘れず 従業員またその店員たることを自覚して質実謙譲を旨として業務に処すること〉

 幸之助は常に「自分は一商人である」と強く意識し、会社発展に伴って組織や社員の官僚化を何よりも憂慮した。そして事あるごとに「皆さんは会社の社員であるが、その仕事の本領は商売人だ」「お互いにもう一度、商売人に立ち返らなければならない」と訴えてきた。

 幸之助がいう「一商人」とは、(1)商売の意義がわかる人、(2)相手の心が読める人、(3)人より頭を下げる人だという。

「創業者の言葉を解釈すれば、この会社はものづくりの会社という側面だけではなく、商売人の会社という色も濃いのです。高くて手が出せない画期的な商品よりも、どうしたらこの商品が世の中に普及して社会全体が豊かになるのかということに尽力してきたからです」(前出・中西さん)

 津賀氏は折に触れて「素直な心で衆知を集めて未知なる未来へ挑戦する」という表現を口にする。これこそまさに幸之助の名言「素直な心」「衆知を集める」を組み合わせたものである。

[1964年]東京五輪を目前に控えた1964年、大阪の本社で米国誌『LIFE』の取材。8ページに及び掲載された。
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[1969年]若狭工場訪問時。社員からも絶大な人気だった。
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[1977年]アメリカのRCA社とVHS方式のビデオの長期供給に合意。ビデオ事業は急速成長。
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