■試行錯誤した「ストローベル製法」のトライ
革靴の製造では一般的に、革のパーツを縫い合わせた後、木型に合わせて内側に引っ張ることでアッパー(上部分)の形をつくる「つり込み」という工程がある。これに対しスニーカーは、ソールに直接パーツを縫い付ける「ストローベル製法」が採用されている。「ストローベル製法」は「つり込み」と違いパーツを引っ張ることがないので、革靴に利用したら革に無理な力かからない。まずは、革靴に「ストローベル製法」が使えるかどうかを試してみることにした。
「ストローベル製法」にトライしてみたところ、最初はアッパーの形が歪みキレイに仕上がらなかった。革靴らしいアッパーになり量産に対応できるところまできたのは、トライし始めてから約半年後のことだった。
また、中底の布を縫い付ける作業も難航した。目印を数か所設けそこを基準にして縫い合わせるようにしたが、いったん合わせて勢いに任せて縫うと途中でずれる。すべての目印にぴったり合うよう、慎重に縫い進めていかなければならず、工場の職人も「難しい」とこぼすほどだった。
「ストローベル製法」の採用は、アッパーとアウトソールの接着も難しくした。「つり込み」は革を内側に引っ張るため、中底につり込み代と呼ばれる余分な革が食い込むことから、つり込み代を糊代にすることができたが、「ストローベル製法」はつり込み代がない。糊が塗れるところは、アウトソールの側面とアッパーが触れるわずかなスペースだけだった。「糊が剥がれないよう、丁寧な接着を心がけました」と竹村さんは話す。
さらに、スニーカーと同じようなミッドソールは採用できなかった。その理由は、「スニーカーのように、ゴムのアウトソールとクッション感のある素材のミッドソールを一体化させた構造にしてしまうと、躓いたときにミッドソールが剥がれてしまう恐れがあったため」と竹村さん。その代わり、アウトソールの2か所にクッション感のある素材を埋め込むことにした。2か所は、体重がかかる踵と指の付け根付近。この工夫とカップインソールの採用で、クッション感を全体的に高めた。
クッション感のある素材を踵と指の付け根に埋め込んだアウトソール
■軽量化を実現した2つの要因
一方、軽量化に関しては、スニーカーにも使われる発泡ゴムをアウトソールに採用したことが大きく貢献した。革靴のアウトソールには普通のゴムを使うことが多いが、発泡ゴムは成型品を金型から取り出すときに膨らむので、中に空気を含み軽く仕上げることができる。
金属シャンクの廃止も、軽量化に大きく貢献した。シャンクとは中底に埋め込む芯材で、靴の背骨に相当するもの。革靴は踵をしっかり押さえ屈曲位置を指の付け根に固定しておかないと歩行が安定しなくなることから、シャンクは省略できない。そこで、不織布のシャンクを採用した。
軽量化に関する目標はとくに設定していなかったが、開発当時AOKIで取り扱っていた紳士靴で最軽量だった280g(25.5cm)は下回りたかったとのこと。これらの工夫により、完成した『超軽量・クッションシューズ』の重さは250g程度まで軽くすることができた。