■“一番を目指せ!”
その人みたいになりたいな。人が持っている能力を引き出すチャンスをアシストしたり、パートさんがもっと生き生きと働ける環境作りのお手伝いをしたい。そんな思いを抱いて、入社3年目の研修で人事への移動を希望したんです。
宮城県の多賀城店の次が宮城県の富谷店、このお店で人事の仕事に就くことになりました。まずは「ちょっと髪が長いですよ」と、衛生面を管理するスタッフから注意されまして。身だしなみや言葉遣いを率先して教える役割なのに恥ずかしいなと。
富谷店は改装オープンを控えていて、多くの人を採用しました。パートさんとアルバイトさんの採用と、各売り場への配置が担当でしたが、特に採用された人への教育が私の主な仕事でした。応募する人は40、50、60代、私は20代半ば。私で務まるのか不安でしたが、「向き不向きよりも前向き。どんなこともまずはやってみないと始まらない」そんな人事教育のベテラン女性の言葉を自らにいい聞かせ、仕事に臨みました。
採用された方はいろんな職種を経ていますね。例えばパートで入社した50代の男性は以前、デザインの会社で仕事をしていそうで。配属になった加工食品部門は飲料、米、菓子等々、商品の種類が多い。ある日のことです。
「こんなのを作ったんですけど」と、その人が自分の手帳を私に見せてくれまして。手帳には自分が扱う加工食品のイラストと、説明書きがぎっしりと描かれている。
「こうすれば商品を覚えるだろうと思って」照れ笑いしながらその男性に告げられ、「す、すごい……」私は思わず声をあげた。「この手帳を皆さんに紹介したいです」と。その人の手帳のことは上司にも報告しました。
富谷店から本社の採用の仕事に配転になり、今は新卒の採用活動のため、全国を回り、学生向けの会社説明会をしています。少子高齢化がますます進む中、AIやロボットの進化で自動化の流れは進むでしょうが、お店で人と関わる仕事に揺るぎはありません。商品、サービス、店舗の良さを発信できる人が理想的ですが。
「一番を目指せ!」それは最初のお店から多賀城店に異動になる時に、農産物売り場の50代の大先輩にかけられた言葉です。部活でテニスに熱中していた学生時代は、一番を目指す勝負の世界にいましたが、この会社に入ってからは、どうすればお客さんにまた来店してもらえるか、答えのないものを追っていた気がします。
一番を目指せか、久しぶりに聞いたなーと。その言葉が新鮮でした。今も時々その言葉を思い出します。そして私はこう理解している。競争ではなく常に上を目指す意識を持ちなさい。課題はたくさんある、ここに止まるんじゃないと。
取材・文/根岸康雄